日本メタルフリー歯科学会

Contents


 第10回学術大会 メタルフリー!! これからの10年を考える


2018年11月24日 京王プラザホテル札幌において、活況のうちに行われました。


理事長 ごあいさつ 「第10回日本メタルフリー歯科学会 学術大会によせて」


一般社団法人日本メタルフリー歯科学会 理事長 本間 憲章


 はじめに、北海道胆振東部地震で被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。
この地震の影響で北海道への観光客が激減したと報道されております。これも大変残念な事であります。
 こういう状況下で、この日本メタルフリー歯科学会の学術大会が札幌の地で第10回を迎えられた事も、意義深い事だと考えております。

 我が国の歯科界では、長い間金属による修復が多く行われてきました。
近年、それら金属によるネガティブな生体反応・金属アレルギー等が発症される報告が増えてきた事は、皆様ご存知の事と思います。
 我が国では、世界に誇れる社会保険制度下で、長い間金属による修復が、歯科医療に寄与してきました事は誰しも否定できない事です。しかし時代は変わり、「審美的且つより安全な材料があり得る」という視点に立って設立されたこの学会の役割は、大変意義のある事だと考えています。
 今年で10年を迎え、記念すべき第10回記念学術大会を、北海道医療大学歯学部 越智守生教授を大会長に、札幌市開業の庄内晃二先生を副大会長に迎える事が出来ます事は、大変うれしく思い、感謝申し上げます。又準備委貞長の仲西康裕(北海道医療大学)先生にも深く感謝申し上げます。

 学術大会のテーマは、「メタルフリー!これからの10年を考える」

 我が国歯科医療の方向性を学ぶには、絶好の機会であるのではと思います。
 接着歯科学・CAD/CAM技術・審美歯科修復・セラミック インプラント等、最近はメタルフリーによる口腔内の修復が可能になりました。
これからは、口腔内に金属を装着しない歯科が進歩していくべきだと考えています。
 日本には、金属アレルギー患者が1000万人以上存在すると言われていますが、その人達の大多数は、原因がわからず適格な治療の恩恵にあずかっていないのでは?と考えています。そして、その一部でも歯科治療に原因があったとしたら、日々臨床に携わってきた者として残念でなりません。
 アマルガム修復が、今では認められない歯科治療になったように、劣化した金銀パラジウム修復も、機能しているようではあっても、金属イオンを放出して身体にとっては、もはや有害物質に変化しているものもあるでしょう。

 この学会を通じて、メタルフリー歯科を学び、これからの臨床に役立てて欲しいと感じます。こういう視点を持った時に、わが国の開業歯科医には、これからの10年、沢山の患者が存在することにも気が付くと思います。
皆様のご活躍をお祈り致します。


大会長 ごあいさつ


第10回日本メタルフリー歯科学会学術大会大会長
北海道医療大学歯学部口腔機能修復・再建学系
クラウンブリッジ・インプラント補綴学分野教授

越智 守生

 このたび、第10回 日本メタルフリー歯科学会 学術大会を私共の講座が主管として、平成30年11月24日(土)に京王プラザホテル札幌にて開催することとなりました。

 記念すべき第10回目の学術大会テーマを「メタルフリー!これからの10年を考える」として、この先10年の歯科界におけるメタルフリーを見据えた学術大会としたいと考える所存でございます。

 大会当日は、午前の部に「理事長講演」「特別講演」「教育講演」を、また午後の部では3名のシンポジストの先生による「シンポジウム」を予定しております。

 まず午前の部ですが、理事長講演では、本間憲章理事長に「ジルコニアインプラントの現状」をご講演いただきます。
 特別講演では、服部正巳先生をお迎えし、「金属アレルギーとメタルフリー治療」をご講演いただきます。
 教育講演では、白川正順先生をお迎えし、「我が国のアレルギーの現況」をご講演いただきます。
 また、午後のシンポジウムでは、まず疋田一洋先生による「10年後のCAD/CAM冠への期待」、次に垂水良悦先生による「ラボサイドでの作業改善としてCAD/CAMシステムと材料物性から考えるマテリアル選択」、そして冨士屋盛興先生による「オールセラミック冠、ワンランク上のはずれない接着」と、非常に興味深いご講演が盛りだくさんとなっております。

 我が国の歯科におけるメタルフリー治療は、今後さらなる発展が期待されています。
 本大会では、現在そして未来のメタルフリーを知り、日々の臨床技術の向上を担う皆様のお手伝いができることを願っております。

理事長講演

ジルコニアインプラントの現状と期待


本間 憲章

一般社団法人日本メタルフリー歯科学会理事長
(医)本間歯科理事長



 メタルフリー歯科を患者に推奨する時に、一番問題になったのは、インプラントであろう。
 我が国では、インプラントと言えば、歯科医は誰しもがチタン製インプラントであると認識している。そしてチタンはアレルギーがない、少ないとされてきた。しかし、近年チタン製インプラントもアレルギーを発症するという報告が、国内外でなされている事は皆様 既にご存知の事だと思う。

 そのような時代背景の中にあって、世界に目を向けてみると、メタルフリー インプラントは、既に臨床応用されて、確実に埋入実績も上げている。その多くはベンチャー企業であるため、大企業に成長した既存のチタン製インプラント メーカーの陰に隠れている。更にセラミックは、その製造方法により物性や強度に各社バラツキがあり、消えてゆくメーカーもある。その中でもスイス製セラミック インプラント(ジルコニア製)に、近年充分信頼にたるものが存在する。既にEUやFDAの認可を取得し、欧米では多くの歯科医に支持を得て、確実に実績を上げている。私も臨床に応用し、既に10年近く経過し、金属アレルギーの患者、又それを危倶する患者に大変喜ばれている。
 私はこの学術大会を通じて、何回か、その紹介をさせて頂いた。

 もはやマスコミ等で報道された金属アレルギーの問題は、国民に様々な不安を抱かせつつある。もし既存のインプラントを薦めた患者に、「金属アレルギーの心配はないのか」と質問を受けたら、「大丈夫です!」とは言っていられない時代になった事を認識してほしい。
 私はチタン製インプラントを否定するのではない。既に金属アレルギーがあると訴えた患者、また、それを危倶する患者には、選択肢として、セラミック インプラントの存在を教示・応用できるようになってほしいと感じるのである。

 今年は、私の10年の臨床経験から、ジルコニアインプラントの症例報告と、新規発表された大企業のジルコニア インプラントも紹介したい。

 私はガソリンエンジン車から電気自動車又は水素エネルギー車の流れの変化のように、歯科インプラントの世界でも、大きな時代の変化が起こるような気がするのである。それは金属アレルギーを知れば、患者が求めるものは何かという事を、長年の町医者生活から直感しているからに他ならないのである。



特別講演

金属アレルギーとメタルフリー歯科治療


服部 正巳

愛知学院大学歯学部客員教授



 私たちの生活環境中の金属は近年著しく種類も量も増加している。身につける装飾品として指輪、ネックレス、ピアスなどがあり特にピアスは耳朶に孔を開けて使用するものであり、ピアスの流行で金属に対する感作率が増大し、アレルギー性接触皮膚炎がかなりみられるようになった。
 接触アレルゲンとしての金属の中で感作率の高い元素はニッケルでついで水銀、クロム、コバルトである。このように金属元素にすでに感作されている人が歯科治療で口腔内に金属修復物(陽性金属)を装着された場合には口腔内や皮膚に湿疹やただれ等の症状を呈することがある。金属に関しては歯科用金属に使用されているすべての金属元素に対してのアレルギーが報告されているが、しかし、これらの歯科用金属材料に対してアレルギー症状を呈する患者さんはごく一部であることも事実で、いたずらに恐れることはない。

 金属アレルギーの治療では一般的には原因除去療法(金属除去療法)が行われる。口腔内から原因となる金属修復物を除去し、その患者さんにとってアレルギーを起こさない安全な材料(金属その他歯科材料)を用いて歯科治療を行う。安全な材料が見つかりさえすれば簡単な治療である。

 私どもは平成元年より3年間にわたり東京医科歯科大学の井上昌之先生を中心にして、皮膚科の中山秀夫先生の協力の下に北は北海道から南は九州までの13大学と1つの機関が協力して歯科用金属に対する感作率をパッチテスト法により調査研究しました。その結果ではまったく症状を呈していないボランティア群でも約10%の感作率を示しました。何らかの症状があり自分が金属アレルギーではないかと疑っている人では20%を越える感作率でした。
 金属アレルギーという病気は決して稀な病気ではなく、誰にでも起こりうる病気であり今後、ますます増加するものと推察される。そのため、診療に当たっては正しい知識と認識が必要と思われる。

 最近では歯科治療に金属を使用しないメタルフリー歯科治療が徐々に広まりつつある。冠・橋義歯の分野では保険適用もあり、CAD/CAMによる補綴装置の作製が急速に広がっている。有床義歯の分野でも積層造形法にて義歯の作製が可能になってきている。印象法についても従来の印象材を使用せずに光学カメラによる方法も可能で、将来は歯科診療室から印象材や、石膏が消える日が来るのではないかと期待しています。

 今回は私の思いのままをお話しさせていただく予定です。



教育講演

我が国の口腔金属アレルギーの現況


白川 正順

元・日本歯科大学口腔外科学教室第1講座主任教授



 近年、日常生活の中で、多岐にわたる口腔アレルギー疾患に遭遇する。その種類は広いが、なかでも我々に最も近い歯科金属やレジンなどの歯科材料を原因とするもの、あるいは食材などによって起こる口腔アレルギー症候群などに大きく分けられる。今回、演者は歯科臨床で最も遭遇する口腔金属アレルギーを中心に話をまとめてみたい。

 一般の社会生活に目を向けると、数多くの種類の金属製品が作られ繁用されている。身近なものではイヤリングやネックレス、時計など金属製の装飾品などが上げられるが、習慣的に使用しているうちに、これらの金属に感作しやすくなり、粘膜や皮膚のかぶれ、膿胞や発疹など種々の症状を表すようになるが、これらのほとんどは接触性皮膚炎である。

 歯科の日常臨床では、歯冠修復に用いられた歯科用金属や歯科用レジンなどが原因となり、金属やレジンが接触する部分に口腔粘膜病変を発症させる。例えば、口腔扁平苔癬、金属性色素沈着、義歯アレルギーなどがあるが、その病態は一様ではない。歯科用レジンの場合には、レジン義歯の不使用などで早期に症状の改善を見るが、歯科金属の場合には接触する粘膜にとどまらず、金属イオンの溶出を原因として、全身の皮膚や粘膜に丘疹、膿疱などの症状を表すことがある。代表的なものには掌蹠膿疱症が上げられるが、最近では顔面皮膚や頭皮あるいは耳珠などに発症する報告例が散見されるようになってきた。
 しかし、これらの症状の誘発原因が歯科用金属であると特定するための診断法が、現役階では確立されていない。したがって、歯科用金属がアレルギーの原因であるとして、短絡的に金属除去を行うのは適切ではない。現段階では、金属アレルギーあるいはレジンアレルギーの検査は安全で簡便な検査法であるパッチテストが広く用いられている。しかし、パッチテストで陽性金属が特定されても、口腔内に装着されているどの歯冠修復物かを特定することは極めて困難である。現役階では、歯科金属アレルギー患者に対する治療方針は定めにくく、臨床の指針となるガイドラインの作成が強く要望されるところである。

 演者が今回頂いたテーマは“口腔金属アレルギー”という漠然とした表現であるが、言い換えれば歯科金属アレルギーに違わない。どちらの表現が現代社会の中で、マッチングする表現かを含めて検討する必要がある。


シンポジウム

10年後のCAD/CAM冠に期待すること


疋田 一洋

北海道医療大学歯学部口腔機能修復
再建学系デジタル歯科医学分野



 2014年4月にCAD/CAM冠が小臼歯限定で保険導入されて以来、4年が経過した。
その間、着実にCAD/CAM冠の普及はすすみ、2016年には年間100万件を超える保険請求が行われたと推定されている。
そして、2017年には小臼歯クラウンの保険請求のうち、CAD/CAM冠が25%を占めるようになった。また、大臼歯部への適用拡大も行われ、2016年4月には金属アレルギー患者に対して大臼歯への適用が認められ、2017年12月には安定した咬合条件付きで下顎第一大臼歯への適用が認められている。
 その動きと並行して、CAD/CAM冠だけではなく、ファイバーコア、ファイバーブリッジなど、非貴金属材料の保険適用が相次ぎ、現在の日本の保険制度におけるトレンドとなっている。この背景には2016年にアレルギー疾患対策基本法が制定されたことからも、現代社会におけるアレルギー疾患が問題視され、ようやく積極的に予防や治療が推進する活動と連動しているものと考えられる。今後もこの動きが歯科材料の非金属化の追い風となると思われる。
 そして、このような社会環境に対応するために、各メーカーが新規材料やCAD/CAM機器の開発を積極的に進め、CAD/CAM冠の適用拡大を促していることも見逃してはならない。より物性に優れたブロックが開発され、大臼歯部でも適用できるようになった。また、当初不安定だった接着の問題も各社CAD/CAM冠に対応する接着システムを開発して、予後の安定に貢献しており、それらを裏付ける基礎的・臨床的研究もすすみ、長期的な予後がより安全になるための術式が確立されている。

 では今後10年では何が期待されるのだろう。さらに歯科材料の非貴金属化が加速され、CAD/CAM冠は小臼歯、大臼歯だけではなく前歯部への適用も期待される。また、現在のハイブリッドレジンブロックだけではなく、新しい材料が開発される可能性もあり、CAD/CAMブリッジヘと発展することも期待される。また、CAD/CAM冠の製作のために口腔内スキャナーの使用が保険制度で承認された場合には、CAD/CAM冠だけではなく、近未来の歯科臨床現場では術式に大幅な変革が起こる可能性がある。今後の10年は日本の歯科医療の大きな転換点となるだろうし、CAD/CAM冠がその起点になるのかもしれない。




ラボサイドでの作業改善としてのCAD/CAM
システムと材料物性から考えるマテリアル選択


垂水 良悦

株式会社 札幌デンタル・ラボラトリー



 メタルアレルギー患者の存在は身近に感じることが多く、前職の水道バルブ製作の工場勤務で同僚が発症したのを始め、歯科技工士になった今でもメタルアレルギー発症で退職を余儀無くされていった社員を見てきた。また日々の業務の中で、メタルアレルギー患者で小臼歯や下顎第一大臼歯以外にCAD/CAM冠を適用するといったケースを見かける機会も多い。

 歯科にCAD/CAMシステムが応用されるようになったことは、セラミックスや高靭性ハイブリッドレジン冠といったメタルフリーの補綴装置を患者へ提供できるだけで無く、鋳造・金属の切削や研磨などの作業で微細な金属にさらされ雁患率も高くなる、私たち歯科技工士の作業の一部を加工機によって担ってくてれる利点もある。現在、歯科技工のCAD/CAM化によりマテリアルの進化も進み、より審美性の高いジルコニアや強度を高めたガラス系セラミックスなど、患者へ提供すべきマテリアル選択は以前よりも複雑になってきている。

 ジルコニアの用途は嘗てのポーセレンレイヤリングのフレーム材としてだけでなく、モノリシックジルコニアクラウンとしての用途も広がり、ここ数年では色調だけで無く強度や透光性のグラデーションを兼ね備えたCAD/CAM用ジルコニアディスクの販売も増えてきた。ただし、物性の評価としての理解が正しくされていないとトラブルの要因になりかねない。またセラミックスといっても、ガラス系セラミックスと金属酸化物系セラミックスは、セット時の前処理なども異なるため各々の特性を生かすためには留意すべき点がある。

 今回、ジルコニアを中心にセラミックスの選択基準や取り扱いの留意点、海外では外科領域でも応用がされていて、今後の発展が期待できるスーパーエンジニアリングプラスチックであるPEEK材について、また、メタルを使わざるを得ない症例の際に、鋳造で製作したものとCAD/CAMシステムで製作した物との物性の違いによるメタルアレルギーへの雁患リスクの違いなども述べたい。

オールセラミック冠,ワンランク上のはずれない接着


冨土谷 盛興

愛知学院大学歯学部保存修復学講座
愛知学院大学歯学部附属病院審美歯科診療部



 間接法歯冠修復の材料として従来は貴金属材料が多用されてきましたが,近年の貴金属価格の高騰,あるいは患者の審美的要求や金属アレルギー問題などにより,セラミックスやレジン材料を使用する頻度が急増しています。とくにCAD/CAMシステムによるオールセラミック冠(ニケイ酸リチウムガラス冠,アルミナ冠やジルコニア冠,以下CAD/CAM冠)の需要は高まるばかりです。しかしながら,その一方で,依然として外れる,割れるといった事例が少なくありません。

 CAD/CAM冠の装着には,レジンセメントの使用が必須です。しかし,確実な接着のためには,セラミックプライマーやレジンセメントを正しく使用しなければ,と理解していても「何をどのように使えば良いの?いまさら聞けないし」というのが本音ではないかと思います。
 また,ワンステップボンド付レジンセメントなる新製品が相次いで発売され,既存のプライマー付レジンセメントとの使い分けは?ワンステップボンドで接着は大丈夫?などと臨床の現場は混乱しているのが現状です。
 さらに最近では,残存歯質が罪薄な残根でも「モノブロック修復」で歯の保存を図る概念が登場し,基礎教育レベルの修復法になろうかの勢いです。

 本講演では,ワンランク上の接着を目指し以下のトピックについてお話しします。
1.われない,はずれないCAD/CAM冠
  • CAD/CAM冠が,割れる,外れる理由とその対策
  • 自己接着型(Self-adhesive)レジンセメントを整理しよう
  • セラミックプライマーを正しく使おう
  • 被着面処理を正しく,的確に行おう
  • 修復用ボンドとSAレジンセメントの併用でワンランク上の接着
2.ワンステップボンディング材を確実に接着させる5か条
  • 接着の基本コンセプトを知る
  • ワンステップボンディング材を確実に接着させる5か条
  • ボンド塗布後「0秒」「強圧エア」に潜む危険な罠
3.歯根破折を防ぐモノブロック修復
  • レジンコーティングとハイブリッドセラミックスによる簡易な臼歯審美修復法




一般口演

歯の移植を活用した究極のメタルフリー


庄内 晃二

札幌市開業



【目的】
 厚生労働省も歯科用金属によるアレルギーを取り上げるようになった。チタンは生体に対し親和性があり安全な金属とされていたが、チタンアレルギーも報告されるようになってきた。
 生体に入り込んだ物質に何らかの原因で感作を受けアレルギーを発症させる。しかし以前から行われている歯の自家移植は同一生体の一部であり、アレルギーや拒絶反応がない有効な歯の欠損治療である。
その3症例を報告する。

【症例の概要と経過】
 症例1
 2010年9月掌択膿庖症の診断を受けた34才男性の患者が、メタルフリーの治療を希望し来院した。口腔内は18・17・16・26・27・36・48に金属による治療がなされていた。48は抜歯をした。
16・26・27・36は金属インレーを除去しCR充填とした。しかし17は金属クラウンで根管内に入る金属コアと根尖病巣もあるため抜歯。そこに金属を外した18を移植した。2010年10月に口腔内から金属をすべて除去した。11月移植歯に抜髄根充、2011年2月移植歯にハイプリットクラウンを装着した。
金属除去より4か月、手のひらの症状の寛解もみられた。

 症例2
 20才女性2011年5月金属修復による審美障害と歯肉の変色を主訴に来院した。
16・26・37・46は金属インレーが装着され、CR充填にした。36は金属クラウンが装着され、その周囲の歯肉は黒く変色したメタルタトゥーが認められる。金属コア形成時に金属削片が歯肉結合組織に埋入残存することにより、金属が溶出し歯肉の変色を来すと考えられ将来はアレルギーの原因になる可能性もある。
36は抜歯し38の根未完成歯を移植する事にした。まず2011年6月Er:YAGレーザーの特性を活かしメタルタトゥーを蒸散除去した。歯肉の回復を待ち2週間後36を抜歯した。さらに5日後38を36部に移植した。コンタクトの離開部をCRで回復し、口腔内はメタルフリーとした。

 症例3
 18才女性2010年11月26の歯髄炎にて来院。自発痛を訴えるため抜髄根充を行った。その
後の処置を考える時、他の歯はノンカリエスで、術者自身金属クラウンにはしたくないため、親も交えてインホオームドコンセントの下26は抜歯し、埋伏根未完性歯の28を移植した。将来的にもアレルギーの原因を作らず、経過はよく審美的にも満足できると思われる。

【考察】
 欠損補綴は金属を使わないで処置するのは容易ではない。しかしながら歯の移植を取り入れることにより可能性を高める。
 自医院では年間12症例程で、年齢は14~75才である。移植はインプラントに比べ適応が限られ、また企画化された手技はない。しかしレシピエントサイトの抜歯裔に同日移植をするのではなく、1~2週間抜歯創歯肉の縮小を待ち移植する事で成績もよくなる。

【結論】
 歯の移植は適応の条件が限られているので、見過ごしがちになり易い。しかしインプラントでは成しえない成長期でも適応する。将来的にもアレルギーの原因となることはない。


一般演題 (ポスター発表)

セラスマート300の光沢維持性評価

樋口 晃司

株式会社ジーシー 冠修復・補綴材料開発


【目的】
 2017年3月に日本歯科材料工業協同組合により、団体規格JDMAS245:2017「CAD/CAM冠用歯科切削加工用レジン材料」が発行され、CAD/CAM冠の性能基準が示された。また、2017年12月1日にはCAD/CAM冠が下顎第1大臼歯という限定ではあるが保険適用された。
 弊社では2017年7月に団体規格タイプ2(小臼歯及び大臼歯)に適合しており、優れた物性を有している「セラスマート300」を発売した。
 本研究ではセラスマート300の光沢維持性について評価した。

【方法】
 セラスマート300と製品A、製品B、製品Cを用いて歯ブラシ摩耗試験を実施した。各レジンブロックをダイヤモンドカッターで切り出し、スプリントリテーナーレジン(GC製)を用いて包埋した後、鏡面研磨したものを試験体とした。歯磨材(ホワイト&ホワイト:ライオン製):水=1:2で懸濁したスラリーとプロスペックアダルト歯ブラシ(かため)を使用し、荷重200gで歯ブラシ摩耗試験を実施した。滑走回数1000回,6000回,12000回後のサンプル表面の光沢度を光沢度計(Gloss  Meter VG2000,日本電色)にて測定した。測定結果は統計解析を実施し、1元配置分散分析による有意差検定(p<0.01)にて確認した。

【結果と考察】
12000回滑走させたセラスマート300の光沢度は40.1%に対して製品A、製品B、製品Cの光沢度はそれぞれ8.4%,7.3%,12.5%となった。セラスマート300を含む全てのサンプルは摩耗回数の増加に伴い、光沢度の減少が認められたがセラスマート300は有意に高い光沢維持性を有していることを確認した。このことから、粒径の大きさやレジンマトリックスとフィラー界面の結合の影響により、フィラーの脱落が起こりにくい可能性が示唆された。

【結論】
 セラスマート300は製品と比較すると歯ブラシ摩耗試験において高い光沢維持性を有していることが確認された。セラスマート300は臨床において大臼歯部クラウンに対して有用なレジンブロックと言える。


CAD/CAM用リチウムシリケートガラスセラミックブロックの耐摩耗性評価

○白木啓太1),三宅貴大1),佐藤拓也1),熊谷知弘1)
1)株式会社ジーシー 研究所
Wear resistance of lithium silicate glass ceramic block for CAD/CAM technology
Shiraki K1),Miyake T1),Sato T1),Kumagai T1)
1)GC Corporation R&D


【目的】
 高い審美性・生体親和性の要求から,オールセラミック修復物への需要・関心が高まっている。さらに,デジタルデンテイストリーの発展とともに,CAD/CAMシステムで用いられる歯科材料も進歩し続けている。このような市場背景を受け,優れた理工学的物性を有するCAD/CAM用リチウムシリケートガラスセラミックブロックを開発した。口腔内で長期臨床応用される材料として,材料の耐摩耗性,並びに対合歯の摩耗量を明らかにすることが重要である。そこで本報告ではヒドロキシアパタイト(HAp)に対する二体摩耗試験を行い,本材料の耐摩耗性とHAp摩耗量について評価したので報告する。

【方法】
 実験には新規ガラスセラミックブロック(以下「LS」)と,その比較としてCAD/CAM用ニケイ酸リチウムガラスセラミックス製品Aを用いた。CAD/CAM加工機を用いて直径約2.1mmの凸部を持つサンプルをそれぞれ作製し,鏡面研磨を行って各試験片を得た。
 得られた試験片の耐摩耗性を評価するために衝突摩耗試験機(K842-01,東京技研社製)を用いた。試験は水を媒体物とする二体摩耗試験とし,予め鏡面研磨したHAp焼結体を試験片に接触させ,10,000回の滑走摩耗を行った。摩耗深さの計測および評価をするためにマイクロメーターを用いた。

【結果および考察】
 製品Aと比べて,LSの摩耗深さが約20%の値だったことから,LSは優れた耐摩耗性を持つことが
分かった。
 LSの摩耗深さが小さかったのは,析出した結晶が高密度かつ微細であるからだと考える。これにより1点に加わる外力がガラスマトリックスを介して複数の結晶に分散し,製品Aと比較して結晶の脱落が抑制されたと考えられる。また,対合歯と見なせるHApのLSに対する摩耗深さは製品Aに比べて約80%の値だったことから対合歯を傷付けにくいと考えられる。
 この結果からLSは長期にわたって高い審美性を維持することが期待される。


口腔扁平苔癬におけるE-Cadherinとp16ink4aのDNAメチル化解析

○平木大地1),植原 治2),3),虎谷斉子2),原田文也4),高井理衣5),吉田光希1),佐藤 惇1), 西村学子1),千葉逸郎2),安彦善裕1)

1)北海道医療大学 歯学部 生休機能・病態学系 臨床口腔病理学分野
2)北海道医療大学 歯学部 口腔構造・機能発育学系 保健衛生学分野
3)北海道医療大学 がん予防研究所
4)北海道医療大学 歯学部 顎顔面口腔外科学分野
5)北海道医療大学 健康科学研究所


【目的】
 口腔扁平苔癬は口腔粘膜の角化異常を示す慢性炎症性疾患で,前癌状態疾患の一つとしても挙げられている.基本的に原因は不明だが,様々な環境因子の関与が示唆されている.その環境因子が引き起こす遺伝子変化にエビジェネティクスがあり,代表的なものにDNAのメチル化がある.本研究では,口腔扁平苔癬におけるDNAメチル化の状態を明らかにするために,E-cadherinおよびp16ink4aのプロモーター領域のメチル化状態について非炎症性組織,歯根嚢胞,および口腔扁平上皮がんとの比較検討を行った.さらに,これらの遺伝子発現との関連性について免疫組織化学的に観察した.

【方法】
 研究に際し,北海道医療大学予防医療科学センター倫理委貞会の承認を得た.材料および方法として,生検・手術材料のパラフィンブロック包埋標本を薄切し,プロトコールに従いDNAを抽出し,EpiTect Plus DNA Bisulfite Kit®を用いて,Bisulfite処理を施しMethylation Specific PCR法を行った.

【結果および考察】
 口腔扁平苔癬において,非炎症性組織や歯根嚢胞と比較し,E-Cadherinの高メチル化および同タンパクの発現低下が認められた.E-Cadherinのメチル化の上昇は,非炎症性組織と比較し,口腔扁平苔癬(p<0.01),口腔扁平上皮がん(p<0.01)および歯根嚢胞(p<0.05)で,また,同タンパクの発現低下は非炎症性組織や歯根嚢胞と比較し,口腔扁平苔癬および口腔扁平上皮がんで認められた.p16ink4aのメチル化の上昇は,非炎症性組織と比較し,口腔扁平上皮がんのみで認められた(p<0.01).以上のことから,E-Cadherinの高メチル化が口腔扁平苔癖の発症に関与していると考えられ,予後診断への応用や,治療のターゲットとなる可能性が示唆された.

【結論】
 E-Cadherinの高メチル化が口腔扁平苔癖の発症に関与していることが示唆された.


ランチョンセミナー

メタルフリーと審美補綴の関わり 保険から自費へ デジタル技エの潮流


仲田 誠一

和田精密歯研株式会社


 近年、患者様の審美的要求ならびに金属アレルギーに対する関心が大きく高まる中、可能な限り口腔内から金属色や金属自体を除去しオールセラミックやジルコニア、スーパーエンプラ(PEEK、Pekktonなど)を使用したメタルフリー修復法が多くなっています。

 保険適用範囲も広がり、デジタルデンテイストリーが歯科界の各分野で存在感を増す中、患者様にとって身近な治療として受け入れ始めている。
 この流れは歯科技工において1992年より先行してデジタル化に取り組んでいる当社にとっても顕著に現れており、CAD/CAMを通じて患者様のニーズに合った補綴物を提供できるようになった。
 メタルフリーの補綴物において保険と自費の臨床例を交えながら、「ここまでできる保険補綴物」と「さらに進化した素材の自費補綴物」をご紹介したい。

 なかでもフルジルコニアクラウンにおいて高い透光性を持ち、複数層に色を分けており且つ曲げ強度も2層に分かれ審美性と強度を併せ持つタイプも出ている。元来ジルコニアは透光性と強度が相反する物性があり、審美性を求めるとブリッジなど強度が必要な症例には不向きであった。この新しい素材により、より審美性が重視される前歯部にもフルジルコニアでブリッジが可能となる。

 また各社から精度の高い口腔内スキャナーが上梓され、フルデジタルワークフローが確立されてきている。
 各社の特色から臨床応用に至る当社の取り組みをお伝えするとともに、口腔内スキャナーからのデータ受注における留意点などもお知らせいたします。
 デジタルデンテイストリーとメタルフリー補綴物及び審美補綴物の3者はマリアージュするものであり、今後さらなるデジタルの融合が期待される中で、技工士の役割について考察したい。




企業による多数の展示ブースが設営され、最新の歯科医療器具や情報の展示がありました。







協賛団体・企業様
Z-Systems AG (スイス Z- System 社) アクシオンジャパン
アルテック コルテンジャパン
札幌デンタル 株式会社 ジーシー
デンツプライシロナ トクヤマ
白鵬 メディア株式会社
和田精密歯研(株) 相田化学工業 株式会社
クラレノリタケ株式会社 (株)モリタ
ヨシダ アサヒプリテック株式会社

日本メタルフリー歯科学会 2018