日本メタルフリー歯科学会

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 第7回 学術大会


2015年11月3日 日本歯科大学生命歯学部において、活況のうちに行われました。


学術大会長挨拶


第7回 一般社団法人日本メタルフリー歯科学会学術大会 大会長
石垣 佳希

日本歯科大学附属病院 口腔外科准教授
口腔アレルギー外来長

 この度、第7回 一般社団法人日本メタルフリー歯科学会学術大会を担当させていただきます日本歯科大学の石垣佳希でございます。このような機会をお与えいただきました本間憲章理事長はじめ学会役員の先生方に厚く御礼申し上げます。今回は2009年の第1回大会(設立総会)と同じく日本歯科大学生命歯学部富士見ホールをメイン会場に開催させていただきます。
 メタルフリー治療とはすなわち「金属を使わない治療」ということですが、その目的には審美的要素と金属アレルギーなど全身的要素があります。本学術大会では、その両面をテーマに特別講演として高橋英登先生に「金銀パラジウム合金からの脱却-メタルフリー治療への第一歩-」と題してご講演いただき、教育講演では不肖私が「金属アレルギー患者に対する当院の取り組み」についてお話をさせていただきます。本間憲章理事長にも「メタルフリー歯科時代におけるインプラント」と題して今後ますます注目されるであろうジルコニアインプラントについてご講演いただきます。
 また「金属アレルギー患者の歯科治療」イコール「保険外診療」というイメージがあり、本格的な歯科治療に踏み切れない患者も少なくありません。近年は先進医療や保険収載により少しずつではありますがメタルフリー治療が可能になってまいりました。そこでシンポジウムでは「メタルフリー治療の保険導入の現状と今後の展望」と題して補綴・保存・歯科矯正各分野のスペシャリストをお迎えして有意義な議論を展開したいと考えております。
 さらに今回、,新たな企画としまして「一般口演」を行うこととなりました。先生方の貴重な経験をご披露いただき、明日からの日常臨床の一助になりますことを期待しております。
 ランチョンセミナーの他に今回は認定歯科技工士セミナー、認定歯科衛生士セミナーなども企画させていただきました。
 今大会に先立ち本学会が一般社団法人化されるようです。懇親会は法人設立パーティーの併催といたしますので最後までお付き合いいただけましたら幸いです。
 当院口腔アレルギー外来貞一同、精一杯準備してまいりましたが、至らぬ点もあろうかと思います。充実した一日になりますよう皆様ご支援の程よろしくお願いいたします。



理事長挨拶


一般社団法人日本メタルフリー歯科学会 理事長
本間 憲章


 皆様、本日は第7回日本メタルフリー歯科学会学術大会に御参加頂き、心より感謝申し上げます。
 第1回学術大会・設立総会が2009年11月29日この日本歯科大学生命歯学部富士見ホールにて行われ、今年で7年目を迎え、この記念すべき会場で、皆様に再びお会いできる事を大変喜んでおります。
 この学会の使命の一つは、口腔内金属が原因で発症する粘膜・皮膚疾患をなくしてゆく事ではないかと学会設立総会で申し上げてスタート致しました。
 我が国の歯科保険制度では、金銀パラジウムに代表される金属、いわゆるメタル修復が多くの国民の口腔内に装着されており、これが原因ではないかと思われる金属アレルギー患者が増加傾向にあるようです。マスコミ等で報道され、それらを心配し悩みを抱えて来院する方も多くなっています。
 今回の学術大会では、特別講演で「金銀パラジウムからの脱却・メタルフリーへの第1歩」と題して、日本歯科医師連盟会長の高橋英登先生に御講演を頂く事になっております。これは大変意義深い内容であると感謝申し上げます。
 身体的な面ばかりでなく、審美的な面からも、メタルに劣らない、身体により親和性に優れ、しかも審美的な歯科材料がありうるという視点に立って、議論を戟わす場が必要だと考え、この学会が設立されたわけであります。
 今後の歯科医療の発展的展望は、この分野の重要性を認識し議論し、広く国民にもアピールしていく時代になっていくのではないかと感じております。
 この学術大会は、日本歯科大学附属病院口腔外科准教授 口腔アレルギー外来長 石垣佳希先生に大会長を、吉田和正先生に準備委員長をお願いして行われます。お二人の先生に心より感謝申し上げ、ご協力頂く教室員の諸先生にも御礼申し上げます。諸先生方のお力添えで、この学会がここで更なる進展をして、国民の健康に寄与してゆく事を期待しております。また学術大会開催にご協力頂きました関係各位に御礼申し上げます。


第7回 一般社団法人日本メタルフリー歯科学会 学術大会講演


特別講演

金銀パラジウム合金からの脱却 -メタルフリー治療への第一歩ー

高橋英登 先生

高橋 英登

日本歯科医師連盟 会長
東京歯科医師連盟 会長





 昨年の診療報酬改定でハイブリッドセラミックスが保険に導入されました。小臼歯に限定されたCAD/CAMを応用した技法に用いるブロックの型ではあるものの、歯冠修復用素材としてハイブリッドセラミックスが健康保険の中に組み込まれたのは事実です。
 誰もが自分の口腔内に、金属イオンの溶出する可能性が否定できない不良な金属修復物など装着したくないのです。また医科歯科大学附属病院歯科アレルギー外来を訪れた患者さんのデータでは原因除去療法終了後2年位経つと改善傾向がみられるのは58%とのデータもあります。
 しかし、我が国の現行公的保険制度の下では、主に経済的理由から12%しか金が含有していない「金パラ」を使用して歯冠修復を行うことが主流です。そして、金銀パラジウム合金の代替材料は以前から模索されていましたが、上記事項を問題視する気運の高まりと、近年の優れた材料の開発によりCAD/CAM用ハイブリッドセラミックスブロックを用いた歯冠修復が「まず手始めとして」保険収載されたのだと考えられます。
 これは今まで「金パラ」主流であった歯冠修復材料がセラミックスフィラーと高分子バインダーによるいわゆるハイブリッドセラミックスに、そして精密鋳造法による技工から光学印象法やCAD/CAMを応用した製作法へのイノベーションが起こりつつある証左でもあります。
 そこで今回の講演ではこの歯冠修復の一大変革期をどう乗り切るか、様々な視点から論じたいと思います。

略 歴
昭和52年 日本歯科大学歯学部 卒業
日本歯科大学歯学部歯科補綴学教室第Ⅱ講座入局
昭和54年 東京都杉並区に井荻歯科医院開設
昭和60年 金属と陶材の溶着に関する研究で歯学博士授与
昭和62年 日本歯科大学歯学部歯科補綴学教室第2講座講師
昭和63年 東京都国民健康保険診療報酬審査委員(平成12年まで)
昭和63年 日本接着歯学会 編集委員(平成12年まで)
平成 5年 日本補綴歯科学会指導医 認定
平成 7年 日本歯科医師会生涯研修講師(平成7年度,8年度)
平成13年 日本歯科医師会診療情報提供に関する検討委員会
委員(平成14年まで)
平成13年 日本接着歯学会 理事(平成21年まで)
平成15年 東京都杉並区歯科医師会 理事
(学術担当 平成15年鹿16年度)
平成15年 東京都歯科医師会 保険指導員(平成19年まで)
平成18年 日本歯科医師会社会保険委員会委員(平成25年まで)
平成19年 東京都杉並区歯科医師会 会長(平成25年まで)
平成21年 日本歯科医師連盟 常任理事(平成25年まで)
日本歯科医師会国民歯科医療のあるべき姿委員会委員(平成22年まで)
平成22年 日本接着歯学会 副会長(平成26年3月まで)
平成23年 日本歯科大学校友会 常務理事
杉並区歯科保健医療センター センター長(平成25年まで)
日本歯科大学生命歯学部 客員教授
平成25年 東京都歯科医師連盟 会長
日本歯科医師市連盟 副会長
平成27年 日本歯科医師連盟 会長




教育講演

歯科用金属アレルギーに対する病院の取り組み

石垣佳希 先生

石垣 佳希

日本歯科大学附属病院 口腔外科准教授
口腔アレルギー外来長





 金属アレルギーはネックレスやイヤリングなど装飾品が原因となることは以前からよく知られている。最近では歯科治療に用いられている金属やレジンなどが原因で、口腔粘膜ばかりでなく全身の皮膚症状に悩むケースがマスコミで取り上げられている。
 本症は接触性に生じることもあるが、その多くは金属やレジンに含まれるイオンなどが遊離し、このイオンが長期にわたって体内に蓄積され、これが原因となって全身各所に種々の病態を引き起こすと言われている。
現代人は、免疫機能が著しく低下し、個体差はあるものの徐々に蓄積されたアレルゲンにより感作されやすい体質に弱体化していることも大きな要因であろう。
 金属アレルギーの原因究明には、口腔と皮膚の症状両面から観察するため、歯科と医科(皮膚科)が連携して診療にあたる必要がある。そこで日本歯科大学附属病院では、2010年3月1日より歯科・皮膚科(内科)・歯科技工室が一体となって口腔アレルギー外来を開設した。当外来ではパッチテストや金属分析などで原因検索し、その結果から治療計画を立案して金属やレジンなどアレルギーに悩む患者さんの苦痛の軽減に努めている。
 しかし身体と金属の接触は歯科用材料だけではなく食品中にも含まれる。また口腔内の炎症や感染によっても金属アレルギーと同様の皮膚症状を引き起こすことがある。
 本講演ではこれら患者に対する当院の取り組みについてその概要を詳述する。
略 歴
1990年3月 日本歯科大学歯学部卒業
1994年3月 日本歯科大学大学院歯学研究科口腔外科学修了
1996年9月 日本歯科大学歯学部口腔外科学教室第1講座 助手
2000年4月 日本歯科大学歯学部口腔外科学教室第1講座 講師
2001年4月 日本歯科大学附属病院 ハイリスクセンター併任(~現在)
同 顎関節症診療センター併任(~2008年3月)
2008年4月 日本歯科大学附属病院 准教授
同 インプラント診療センター併任(~2015年3月)
2014年4月 同病院 口腔アレルギー外来 外来長
口腔リハビリテーション多摩クリニック併任
 
学会活動
日本有病者歯科医療学会理事,指導医
日本有病者歯科医療学会理事,指導医
日本先進インプラント医療学会理事,指導医
日本顎顔面インプラント学会運営審議委員,指導医
World Congress for Oral Implantology 日本部会評議員
日本口腔外科学会専門医
社会活動
東京都国民健康保険診療報酬審査委昌会委員
American Heart Association BLSインストラクター



理事長講演

メタルフリー歯科時代におけるインプラント

本間憲章 先生

本間 憲章


医療法人 本間歯科
日本歯科大学総合診療課 臨床教授




 現在我が国では、インプラントと言えば、歯科医は誰しもがチタン製インプラントであると認識している。そしてチタンはア レルギーが無い、少ないとされてきた。しかし、近年、チタンもアレルギーを発症するという報告が国内でもなされ、その論文 の内容に私自身驚いたのである。やはりチタンも金属であったのだと思い知らされ、私はインプラントの分野でも大きな時代の 変化が起こる気がした。
 1970年代、さまざまな材料で歯科インプラントが研究開発されていたが、ブローネマルクの偉大なる発見・厳格なプロトコー ル確率で、世界ではチタン製インプラントが主流になり、他の材料での研究が言わば停滞したと言えるかもしれない。今日金属 アレルギー特にチタンアレルギーの症例報告がなされるようになり、私は世界に目を向けてみた。するとメタルフリー(ジルコ ニア)インプラントが存在していたのである。多くはベンチャー企業であるため、大企業に成長した既存のチタン製インプラン トメーカーの陰に隠れている。更にジルコニアはその製造方法にょり強度や耐久性に各社製品にバラツキがあり、消えてゆく製 品やメーカーもあった。
 その中でもスイス製メタルフリーインプラント(ジルコニア製)に、近年充分信頼できるものが存在する。EUやFDAの認可を 取得、欧米では既に30,000本も埋入実績をあげている。私も臨床応用し、既に6年が経過し、金属アレルギーの患者、又それを 危倶する患者に大変喜ばれている。
 もはやマスコミ等で報道された金属アレルギーの問題は、国民にさまざまな不安を抱かせつつある。もしチタン製インプラン トを薦めた患者に、「金属アレルギーの心配はないか」と質問を受けたら、大丈夫ですとは言っていられない時代になった事は 認識してほしい。
 私はチタン製インプラントを否定するのではない。そのような患者に、選択肢として、セラミック(ジルコニア)インプラン トの存在を教示・提案できるようになってほしいと感じるのである・メタルに劣らない身体にょり親和性に優れ、しかも審美的な歯科材料があり得るという視点に立って設立されたこの学会では、インプラントもメタルフ リーで可能だという発表をさせて頂く。更に、フロリダで行われた第1回国際セラミックインプラント学会で症例報告も発表さ せて頂いたが、その際得た驚きの内容・情報もあわせて報告したいと思う。
 私は従来のガソリンエンジン車からハイブリッド車への改良・更には電気自動車又は水素エネルギー車への変化が時流である かのように、歯科インプラントの世界でも、大きな時代の変化が起こるような気がするのである。
 人が生きている環境の変化と共に、それは金属アレルギーについて少し勉強すると、患者が次に求めるものは何かという事を 、長年の町医者生活から直感しているからに他ならない。


略 歴
干葉県松戸市出身。私立暁星学園高校卒。1973年日本歯科大学卒業後、東京女子医大口腔外科学教室へ入局し、村瀬正雄教授、河西一秀教授に師事。その後、米国ミシガン大学に留学、更にカナダに渡り、マギル大学付属モントリオール ジェネラルホスピタルに勤務。医師・歯科医師の両資格をもつ口腔外科専門医Dr.Keneth.C.Bentleyに師事。救急歯科外来を中心に口腔外科Osteotomyの研鑽を積む。北米生活3年半の後帰国。干葉市にて開業。千葉県内に5ケ所の歯科医院を開設し、医療法人社団 本間歯科の理事長、ならびに医療法人千寿会理事を務める。
日本歯科大学非常勤講師・臨床講師を経て現在、日本歯科大学附属病院総合診療科臨床教授
医学博士
ICD国際歯科学士会Fellow
日本メタルフリー歯科学会理事長
日本顎顔面インプラント学会運営審議委員
ICOI国際インプラント学会 認定医 指導医 アジア太平洋地区認定医審査委員歴任
日本口腔外科学会会員 日本口腔インプラント学会会員
暁星歯学会会長
スイスメタルフリーインプラントZ-Systems社 海外認定指導医

シンポジウム ~ メタルフリー治療の保険導入の現状と今後の展望

グラスファイバー補強高強度コンポジットレジンブリッジ

五味治徳 先生

五味 治徳


日本歯科大学生命歯学部歯科補綴学第2講座 教授




 歯冠用コンポジットレジンは、フィラー添加量の増大やモノマーの改良による物性の向上によって、臼歯部クラウンへの応用が可能となり、前歯部のみならず臼歯部歯冠修復材料としても優れた物性および色調再現性、簡便な技工操作によって高い臨床評価を得ている。
 一方、臼歯部一本欠損のブリッジ症例に対してコンポジットレジンを応用する場合は、単体では連結部からの破折の危険性が懸念される。また金属フレームに前装するといった従来型の方法では、金属を使えない患者さんには対応できない。そのためメタルフリーブリッジの弱点である連結部に金属以外の補強材を応用するために、繊維強化材料であるグラスファイバーに注目し、ガラス繊維の最適補強量や最適径、ファイバーに含浸させるボンディング材の組成や強度、ファイバーの設置位置などの基礎的研究を経てグラスファイバー補強コンポジットレジンブリッジの臨床応用が可能となった。
 さらに、MIの概念においても、最近の接着技法を駆使し、健全な歯質をできるだけ切削せずに残すといった治療法の確立も課題になる。当講座では、健全歯質の削除量を最小限にとどめ、審美性も損なわずに補綴が可能と考えられるグラスファイバー補強接着ブリッジについても検討を行ってきた。
 本講演では、グラスファイバーで補強した高強度のコンポジットレジンの基礎と臨床についてお話したい。

略 歴
1987年 日本歯科大学歯学部 卒業
1991年 日本歯科大学大学院歯学研究科修了(歯科補綴学専攻)
2001年 日本歯科大学生命歯学部
歯科補綴学第2講座 講師
2009年 日本歯科大学生命歯学部
歯科補綴学第2講座 准教授
2015年 日本歯科大学生命歯学部
歯科補綴学第2講座 教授

歯科治療における CAD/CAM システムの応用

中村昇司 先生

中村 昇司


八重洲歯科診療所 院長
日本歯科大学生命歯学部接着歯科学講座 非常勤講師




 近年、歯科界における技術革新は目を見張るのもがある。中でもデジタル技術の歯科応用は、急激かつ多量で歯科医師の対応力が問われるところである。
 一般的であるのは、レセプト請求におけるコンピューター(以下レセコン)の導入である。
 レセコンの導入は、保険請求の誤りや作業時間の減少、さらには効率の向上を図ることに成功した。現在では、結果として多くの歯科医院で通常に使用されている。
 治療の側面に目を移してみても、デジタル技術の応用は拡大の一途を示しており、中でも歯科用CAD/CAMシステムは注目の中心に存在している。欧米でその傾向は特に顕著で、デンタルショウなどでも多種多様な機種が発表され百花繚乱の様相を示している。
 一般臨床家においても、その普及率は急速に拡大しているとの報告も存在する。
 教育現場においても、歯科用CAD/CAMシステムは一般的な存在となっている。学生の実習プログラムに同システムが用いられており、従来のインレー修復などと同様になんら特別な存在としてではなく教えられている。
 日本においても、保険診療にCAD/CAM冠が認められた。現在では、小臼歯のみの適応となっているが臼歯など他部位への適応拡大も十分考えられる。
 さらには修復物・補綴物の作製にとどまらず、インプラント治療における診査診断からサージカルガイドの作製まで対応可能となってきている。
 近い将来に本システムは、欧米と日本との環境が異なるため一概には言えないが遅かれ早かれ高い確率で歯科治療の中核をなすと推察できる。これは、歯科医師や歯科技工士の増減など歯科界をとりまく環境の変化も要因といえるのではなかろうか。
 歯科医師や歯科技工士を含めた歯科医療従事者は、以上を十分認識し本システムへ対応しなければならない時代となりつつある。
 今回は歯科用CAD/CAMシステムの現状と今後を解説し、臨床例も供覧させて頂こうと考えている。
略 歴
1992年 日本歯科大学歯学部卒業
1996年 日本歯科大学歯学部大学院歯学研究科卒業
日本歯科保存学会所属専門医
日本歯科保存学会所属専門医
日本歯科審美学会所属
日本デジタル歯科学会所属
日本口腔インプラント学会所属

矯正歯科診療におけるメタルフリー治療への現状と展望

常盤 肇 先生

常盤 肇


医療法人社団真歯科常葉矯正歯科医院 院長
鶴見大学歯学部 臨床教授




 矯正歯科治療は、理想的かつ持続的な矯正力を歯に伝える事により歯の移動を行うため、現在のところメタル製品が物理的に最も理想的な素材であり、完全に切り離して考えることは現在の技術では不可能であると考えられます。
 矯正治療におけるメタルフリー化という概念は、歴史的に全身的健康への影響というよりはむしろ矯正治療中の審美的要求に対する対応として発展してきたと言えます。特に近年、成人矯正患者の占める割合が増加するに従い、審美性の良い治療方法として、セラミックブラケットやマウスピース矯正治療等、様々な材料や治療方法が開発され急速に臨床に導入されてきています。しかし、これらの治療方法は結果的にメタルフリー化に寄与することとなり、本学会の趣旨に沿ってきたものと思います。
 一方、元来自費診療が中心であった矯正歯科治療は、1982年より唇顎口蓋裂児に対する保険治療への導入が開始され、その適用範囲も徐々に増えてきました。患者の増加に伴い、金属アレルギーを有する患者への対応が問題となっています。矯正保険診療はメタル主体の治療体系であるため、対応が困難になってきているのが現状です。メタルフリーの矯正治療はコスト的観点や、保険医療材料、薬事承認等の面から保険診療への導入には障壁があり、今後柔軟な対応が求められています。
 今回の講演では、矯正歯科における金属アレルギーを有する不正校合患者への対応の実際とメタルフリー化に向けての現状と問題点について、いくつかの症例を供覧しお話しさせて頂きたいと思います。
略 歴
1984年 慶應義塾高等学校 卒業
1990年 鶴見大学歯学部 卒業
1990年 鶴見大学歯学部 歯科矯正学講座入局
1997年 鶴見大学歯学部 歯科矯正学講座 助手
1997年 日本矯正歯科学会 認定医(第1701号)
2001年 学位取得 博士(歯科矯正学)
2002年 日本矯正歯科学会 指導医(第539号)
2007年 鶴見大学歯学部 歯科矯正学講座 助教
2013年 鶴見大学歯学部 歯科矯正学講座 講師
2014年 鶴見大学歯学部 臨床教授
2014年 医療法人社団真歯会 常盤矯正歯科医院 院長

質疑応答の模様

認定歯科技工士セミナー

本院口腔アレルギー外来における歯科技工士の取り組み


内藤  明


日本歯科大学附属病院歯科技工室
口腔アレルギー外来

 近年、歯科材料として使用されている物質が接触アレルギー反応を引き起こしたとされる症例が多数報告されています。当院では2010年に口腔アレルギー外来が開設され、これらの症状を訴える患者に対し皮膚科医師、歯科医師、歯科技工士が総合的に取り組みその原因の特定および治療に努めています。接触アレルギー患者の診療に際しては、まずアレルゲンを特定しこれを除去することが重要で、その検索方法としてパッチテストが広く行われています。当院では歯科補綴物を構成する材料の中で代表的なアレルゲンであるとされる金属をはじめ、金属除去後の補綴に使用する可能性があるレジン材料やセメント材料についてもパッチテストを実施し、その結果に基づいて治療計画を決定しています。当外来には2名の歯科技工士が所属し、パッチテスト試薬の作成や、アレルゲン特定後の補綴計画を歯科医師とともに策定するなどの形で参画しています。
 今回は歯科材料のパッチテスト方法と、平成22年から平成25年までの3年間に当院皮膚科外来で実施したパッチテスト結果(金属263名,レジン・セメント163名)について集計し一定の知見を得たので報告します。
略 歴
1986年 日本歯科大学附属歯科専門学校歯科技工士科 卒業
1986年 日本歯科大学附属歯科専門学校 助手
1998年 日本歯科大学附属病院 歯科技工室
2007年 日本歯科大学附属病院 歯科技工室 室長
2010年 日本歯科大学附属病院 口腔アレルギー外来併任
日本歯科技工学会 評議員,認定技工士
日本メタルフリー歯科学会 認定技工士

歯科材料に起因すると思われるアレルギー症例への技工製作



中村 美保


日本歯科大学附属病院歯科技工室
口腔アレルギー外来

 様々な歯科材料による接触アレルギーという概念が歯科医療の場で積極的に認められるようになった。当院では1997年に皮膚科外来が敷設され、2010年には口腔アレルギー外来が併設されて、皮膚科医師、歯科医師、歯科技工士が連携し、歯科に関連すると思われるアレルギーヘの対応体制が強化された。
 当外来に所属する歯科技工士の主な取り組みとして,医師とのパッチテスト試薬の検討・作成,接触アレルギー症状を呈した症例における治療計画の中で技工製作に関する検討などに努めている。
 金属材料に起因する接触アレルギー症例への対処法については、金属材料を除去し、レジン系材料やオールセラミックスへの置換、いわゆるメタルフリー治療が挙げられる。中でもセラミック材料は化学的にも安定しており、審美的にも優れているため、メタルフリー治療においては有効な材料であると言える。一方,レジン系材料においては、歯科材料として使用頻度の高いアクリル樹脂-メチルメタクリレート(以下,MMA)で、そのMMAの残留モノマーがアレルギー反応を引き起こすという症例が報告されている。また、メタルフリー補綴物を口腔内にて接着するためのレジン系セメントにおけるアレルギー反応も注目すべき点となっている。
 今回、当院にてパッチテストを行い、レジン系材料における接触アレルギー反応を特定された数件の症例において、それをふまえた治療計画に基づく様々な技工製作を紹介する。

略 歴
1999年 日本歯科大学附属歯科専門学校 歯科技工士科 卒業
2001年 日本歯科大学附属歯科専門学校 歯科技工士専攻科 修了
2001年 日本歯科大学附属病院 歯科技工室
2010年 日本歯科大学附属病院 口腔アレルギー外来併任
日本歯科技工学会 認定技工士
日本メタルフリー歯科学会 認定技工士

認定歯科衛生士セミナー

予防メインテナンスで患者さんに伝えるべき重要なポイント



鈴木 茜


株式会社オーラルケア 予防システム構築サポート部


“予防メインテナンス”のため歯科医院に通う日本人がどれだけいるか、ご存知ですか?
 残念ながら、答えはたったの2%。ほとんどの人は、治療を終えると歯科医院から足が離れてしまうというのが現状です。「歯医者さんは治療をするところ」「痛い思いをするからできるだけ行きたくない」という概念が、いまだに残っているのです。
「予防メインテナンス無くして、治療後の状態は維持できない」
 この歯科医療従事者にとっての常識を、まだ多くの国民は知りません。だからこそ私たち歯科衛生士の役割りでも特に重要なのは、メインテナンスに通う価値を伝えること。治療後の状態を確実に維持し、生涯に渡って健康な口腔内でいられるかどうかは、私たち歯科衛生士の“伝え方”にかかっていると言っても過言ではありません。

 そこで今回テーマとするのは、“予防メインテナンスで患者さんに伝えるべき重要なポイント”です。予防先進国スウェーデンでは、ペール・アクセルソン博士の研究において「適切なメインテナンスによって成人でも97.7%歯を残せる」ということが立証されています。これは、歯科衛生士が患者さんに伝えるべき情報をきちんと提供できていたからこそ達成されました。ここからつかみだした重要なポイントを盛り込み、明日からの臨床ですぐに実践いただけるような情報をお届けしたいと思います。


略 歴
2000年3月 太陽歯科衛生士専門学校卒業
2000年4月~2002年9月 埼玉県内の歯科医院勤務
2002年10月~現在 株式会社オーラルケア勤務

一般講演

金属修復物の組成に関する蛍光X線分析装置を用いた迅速分析

口演者

木幡 雅,石垣佳希,神山通草,吉田和正,北詰栄里,阪本まり,川村浩樹

日本歯科大学附属病院口腔アレルギー外来




 近年、歯科用金属によるアレルギー症状がクローズアップされている中でパッチテストなどアレルギー検査は行われるものの口腔内の金属分析は意外と実施されていない。その理由は歯科用金属自体が規格によりある程度の組成が渉猟しえる点や成分分析に係る時間や労力の問題が挙げられる。しかしアレルギー検査で陽性反応を示した元素が規格から予め想定できるものばかりとは限らず、修復物作成の段階で規格以外の成分が混入する可能性も否定できないため修復物の組成を知ることは治療を行う上で極めて重要である。
 また金属除去によりアレルギー症状が改善するのか、その成分が実際に口腔内の金属に含まれているのか、などの不安から歯科治療をすべきか否かを苦悩する患者も少なくない。
 ハンドヘルド蛍光Ⅹ線分析計は、測定する対象物にⅩ線を照射し、発生した蛍光Ⅹ線を感知することで対象物に含まれる成分(元素)の種類や含有量を測定できる非破壊検査機器である。固体,粉体,液体などの元素分析が非破壊で迅速に分析できることから、電子機器や建材の有害物質検出、天然鉱物資源の評価、合金やリサイクル原料の評価、製造現場での品質検査、貴金属の評価など、世界で幅広く使用されている。
 現在、当外来では蛍光Ⅹ線分析計(DELTAPremium,オリンパス)を用いた口腔内金属の成分分析を行っている。今回は、本装置の概要とこれまでの使用状況などについて報告する。


日本歯科大学附属病院におけるCAD/CAMハイブリッドレジンクラウンの臨床応用状況

口演者

曽布川裕介,山瀬 勝,秋山仁志,東郷尚美,岩井 謙,中原由絵,石垣佳希

日本歯科大学附属病院口腔アレルギー外来




【目 的】
 歯科用CAD/CAMシステムにより製作されたハイブリッドレジンクラウン(以下,CAD/CAM冠)が保険収載され、臨床応用が始まっている。本発表では、当院におけるCAD/CAM冠の使用実態について報告する。【方 法】
 日本歯科大学附属病院総合診療科において、平成26年4月1日より平成27年8月21日までの1年6か月間に装着されたCAD/CAM冠を調査対象とし、部位、平均装着期間、トラブルの有無を調査した。
【結果および考察】
 現在まで良好な臨床経過を示している症例が多いものの、脱離例も観察された。CAD/CAM冠は審美性と機械的強度に優れた補綴装置である一方、臨床における使用法については明確な情報が普及しておらず、装着後早期に脱離するトラブルが生じている。今後は長期的な予後観察を行い、的確な治療法を確立する必要があると考える。


各種金属系およびレジン系歯科材料にアレルギーのある患者の1症例

口演者

川村浩樹,中村美保,内藤 明,内田和雅,五島順子,松村和洋,石垣佳希

日本歯科大学附属病院口腔アレルギー外来




【緒 言】
 近年、各種金属材料、歯科用材料に対してのアレルギーを持った患者の症例が増加しており、臨床の現場での対応に苦慮することが多くなってきている。日本歯科大学附属病院では、近年、このような患者に対応することを目的として口腔アレルギー外来を設立、診療を行っている。今回、我々は、各種金属系およびレジン系歯科材料にアレルギーのある患者の1症例を経験したので、その概要について報告する。
【症 例】
 45歳、女性。平成26年7月、紹介元医院にて右上⑤4③陶材焼付鋳造冠ブリッジ除去、右上5の感染根管処置を開始、暫間被覆冠を作成仮着した。8月初旬に当該部頬粘膜周囲に発赤、腫脹を認め、暫間被覆冠を除去。治療開始前に装着されていた陶材焼付鋳造冠を仮着、9月、処置中に右上5脱落したため、インプラント処置を希望し当院口腔アレルギー外来に紹介来院。
 口腔内粘膜に著明な病変はなく、口腔内には陶材焼付鋳造冠、インプラント、全部鋳造冠、金属インレ一等の修復が認められる。全身既往歴は花粉症、家族歴は特記事項なし。口腔内の精査では歯周組織は軽度歯肉炎のみ存在した。
 既往より金属および、歯科材料のアレルギー検査を医科外来に依頼、水銀,コバルトに強陽性、白金,スズに弱陽性、各種レジン系材料に強陽性が認められた。
 患者の希望はインプラント補綴であったが、インプラント体の埋入には条件が不適当であったことより、ブリッジによる補綴的修復を提案する。各種のレジン系材料に強陽性のアレルギーがあることにより、モノマーの残留が少ないGC社製レポテックLCを用い、あらかじめ暫間被覆冠を製作、口腔内への残留モノマーの放出を極力少なくした上、支台歯形成、印象採得を行い、ジルコニアフレームオールセラミックスブリッジを作成、HEMAフリーのクラレノリタケデンタル社製SAルーティング⑧にて装着を行った。現在、経過観察を行っているが良好に経過中である。
【結 語】
 今回の症例は様々な歯科材料にアレルギーがあり、通常の暫間被覆冠が作成困難であったが、医科外来、技工室との連携のもと、良好な結果を得ることができた。今後、更に同様の症例の対応に今回のデータを役立てていく所存である。


北米におけるゴールド(金)修復のポジション

口演者

清水雄一郎

清水歯科医院,R.V. タッカーコールドスタディクラブジャパン





 本学会の発展が示すように、メタルフリー治療の重要性が高まっている。しかし、学会設立趣意書には、「“メタルに劣らない身体により親和性に優れ、しかも審美的な歯科材料”があり得るという視点から、この学会が存在する。」とある。ここでは、その“メタル”、取り分けゴールド(金)について、メタルフリー学会でも有用であろう、北米での取り扱われ方を、2つの事由を交えて紹介する。
 第1は、適切に製作され、装着されたゴールド修復は、最も長持ちする治療法である。ゴールドより長持ちする歯科材料を示した文献は、メタルフリー修復の普及した現代においても、未だに発表されていない。ここで、最も大切なことは、“全ての”ゴールドが長持ちするのではなく、“適切に製作され、装着されだ’ゴールドが長持ちするということである。コンポジットレジンやセラミックを含む、メタルフリー修復においても、材料の性能を過信することなく、状況に応じて“適切に”治療することが重要である。
 第2に、教育材料としてのゴールド。ゴールドより長持ちする材料が現れていないにも関わらず、北米の多くの歯科大学では、“もはやゴールドの時代じゃない”という感覚的な理由で、ゴールド修復をカリキュラムから外してしまった。その結果、率直後の歯科医師の技術不足が問題となった。ゴールド修復を成功させるには、知識に加え、卓越した技術が必要であり、その習得には、努力と時間が必要である。“適切な”ゴールド修復を学ぶことは、歯学の基礎を学ぶことである。そのような理由から、近年では、ゴールド教育の重要性が見直され、講義・実習を再開している歯科大学も増えてきた。
 上記の事由から、北米においては、歯学の基礎としてのゴールド修復の重要性が再認識されてきている。先人達が築いてきた歯科医学を過去のものとするのではなく、メタルフリー材料へと応用していくことが、本学会の発展へ繋がると信じている。


ポリプロピレン製ノンメタルクラスプデンチャーを用いた1症例

愛知学院大学歯学部 高齢者歯科学講座1)
愛知学院大学歯学部附属病院 口腔金属アレルギー外来2)
愛知学院大学歯学部 冠・橋義歯学講座3)

Ⅰ.目 的
 近年、歯科用金属やレジンにアレルギー反応を示す患者の報告がある。今回、ニッケルに陽性、パラジウム,クロム,コバルト,イリジウム擬陽性の患者に対しノンメタルクラスプデンチャーにて補綴処置を行ったので報告する。
Ⅱ.症例の概要
 患者は60歳。男性。2014年1月に#D#Fに全部鋳造冠が装着されていた。補綴治療終了後、味覚異常や口唇のしびれなどを感じるようになり、金属アレルギーを疑い、M歯科医院を受診(東京)した。Niに陽性反応、Pd,Cr,Co,Irに擬陽性反応であることが判明した。この後、名古屋への転勤が決まりM歯科より紹介され本院を受診た。
Ⅲ.治療内容
 金属分析を行いNi,Pd,Cr,Co,Inが含有指されているD”L*-④M^に純チタンによる全部鋳造冠と純チタンによる全部鋳造冠を支台としたブリッジにて処置を行い、B$BCの欠損部にはポリプロピレン製義歯を製作し装着した。
Ⅳ.経過ならびに考察
 歯冠修復した歯牙は疹痛や歯周組織の異常は認められず、義歯の沈下による粘膜面の痺痛もない。今後長期に渡る経過観察が必要と考える。


ランチョンセミナー

30年が経過したセレツクシステムの最新情報

ランチョンセミナー風景
西洋 省三

シロナデンタルシステムズ株式会社

1985年、スイスチューリッヒ大学において初の口腔内光学印象によるチェアサイド修復が行われて、今年で30年となりました。先月にはロサンゼルスで約6,000名が集まり盛大な30周年イベントも開催されました。セレックシステムは単に修復物を製作するマシンにとどまらず、他のデジタル機器とデータ共有によりさらに便利に進化・発展していきます。


大会会場風景

企業による多数の展示ブースが設営され、最新の歯科医療器具や情報の展示がありました。










協賛団体・企業様
相田化学工業 株式会社 アサヒプリティック 株式会社
有限会社 医学情報社 有限会社 ウエイブレングス
カボデンタルシステムズジャパン ㈱ 株式会社 ギコウ
クラレノリタケデンタル ㈱ 株式会社 ジーシー
株式会社 シエン社 株式会社 松風
シロナデンタルシステムズ ㈱ 株式会社 スマートプラクティスジャパン
スリーエムヘルスケア ㈱ Z-Systems AG (スイス Z- System 社)
株式会社 トクヤマデンタル 株式会社 モリタ
株式会社 ユニックスジャパン 株式会社 ヨシダ
株式会社 ヨシダタロウ 和田精密歯研 株式会社

日本メタルフリー歯科学会 2015