メタルフリーによる歯冠修復の材料として、審美性、生体親和性に優れたセラミックスが従来から使用されています。シリカ系セラミックスやアルミナセラミックスを用いたオールセラミック修復は、強度の問題などから主に単独冠に対して臨床応用されてきました。しかし、十数年前に登場した酸化ジルコニウム(ジルコニア)セラミックスにより、ブリッジに対するオールセラミック修復が可能となりました。また、ジルコニアはインプラントアバットメントやインプラント上部構造にも使用され、メタルフリー修復には欠かせない材料です。
ジルコニア修復物に関して欧米を中心に、評価期間5年以下での臨床成績が数多く報告されています。それらの報告では、ジルコニア修復物の生存率は95%以上と良好な結果を示しています(Sailer I et al.Int J Prosthodont 20,383-388,2007,Roediger M et al. Int J Prosthodont 23,141-148,2010 など)。それら論文では、ジルコニアフレーム自体の破折はほとんど報告されておらず、ジルコニアフレームの生存率はほぼ100%で安定した材料であることが証明されています。しかし、いずれの臨床研究論文でも前装陶材部での破折(チイツビング)あるいはジルコニアフレームから陶材の剥離が数多く報告されています。現在は、その問題点を解消するために、ジルコニアと前装材料の接合方法や前装材料自体の強度などが注目され各方面で研究が行われている状況です。
そこで、今回は、ジルコニア修復物の特徴、臨床成績、臨床例、今後の展望などを提示し、これからのジルコニア修復物の可能性について、皆様とご一緒に検討していきたいと考えています。
近年、ウェルエイジングの観点から歯のロングライフ化が求められています。
超高齢社会に対応するためには若年者から高齢者まですべての世代に対してエイジマネジメントの視点で修復治療を行う必要性があると考えます。とくにメタルフリー分野ではボンディング材、レジンセメント、ファイバーポスト、ジルコニアなどの新しいマテリアルが充実し、審美性と機能性を兼ね備えた魅力的な提案が可能となりました。しかし一方で、患者のニーズや治療法の選択肢も多様化してきています。徹底的に歯質を保存することを優先する場面、あるいは致命的なトラブルを回避するために補綴に踏み切る場面、審美治療がもたらすプラスの効果のためにそれに伴う侵襲を最小に抑えなければならない場面等、われわれの判断と技術がその歯のエイジングに大きな影響を与えることも事実であります。
以上のような背景から、修復物の審美的な要素だけでなく、溝ず第一に歯髄保存のアドバンテージを重視した修復治療を実践することは、支台歯の変色や強度の低下を避けるために有効なエイジマネジメントとして位置づけられるでしょう。また、長期に患者とつきあう臨床家にとって、tooth
wear に代表されるような加齢に伴う変化や歯根破折をはじめとする力学的不調和を予測し、あらたな補綴修復を提案することもエイジマネジメントにおける必要な局面であります。ボンディングシステムを活用した直接修復からジルコニアセラミックスによるフルマウスリコンストラクションに至るまで、メタルフリーを通じてウェルエイジングをサポートしていくことは必ずや
QOL の向上と歯のロングライフ化に貢献することとなるでしょう。
今回は、メタルフリーを軸に歯科医療をエイジマネジメントの視点で再考し、新たな修復治療の価値を模索する機会にしたいと考えております。
歯を守るメタルフリーう蝕治療
日野浦 光
日野浦歯科医院
脱灰(⇔再石灰化)→う窟→修復処置一二次う蝕一抜髄→クラウンー破折→抜歯と進行していくう蝕の重症化(Repeated Restoration
Cycle)は、脱灰⇔再石灰化の過程以外は抜歯に向かっての一方通行です。その Cycle の進行をできるだけ遅くすること、さらに Cycle
をどこかで長い期間停止させることは、歯を長く使ってもらうためにも重要です。そのためにはう裔を小さいうちに発見すること(早期発見・早期治療)はもちろん、さらにはう窟になる前のう裔になりそうなところをそのリスクとともに見つけ出し、う裔になる前に食い止める(早期リスク発見・早期対処)ことも要求されています。
そのような中、 M I という概念がう蝕治療で定着しています。この M I の概念の実現のためには、口腔内細菌数を減少させる、患者教育を徹底する、再石灰化を促進させるなどの早い段階での
Early Intervention が求められています。さらに、接着性材料やメタルフリーの審美性材料の向上により切削を必要とする治療にも大きな変化をもたらしてきました。「歯を守る」というこの概念は、広く国民にも受け入れられるものです。
審美性をも考慮に入れたメタルフリー治療により、歯や歯並びが審美的で、 Quality of Life が高く健康的であることは、国民すべての願いです。
M I の概念の元でのう蝕治療に対する取り組みを通じて、機能性や審美性を持つ歯が高齢者になってまでも長く使用できることは、すべての人々の望みです。それを実現するために歯科医院全体が共有しなければならない考え方を、皆さんと共に見つけていきたいと思います。