2021 年11 月21 日 Zoom によるLive 配信

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Zoom によるLive 配信にて行われました。

大会長ご挨拶

大会長第12 回日本メタルフリー歯科学会大会
奥羽大学大学院歯学研究科研究科長
奥羽大学歯学部口腔病態解析制御学講座主任教授
大会長 清浦 有祐

 

このたび第12 回日本メタルフリー歯科学会の大会長を仰せつかり大変光栄に存じております。本来ですと昨年の8 月に開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で本年に延期となり、開催様式もZoom によるオンライン開催となりました。
また、東日本大震災を乗り越えて発展している福島の地を実際に会員の皆様に訪れていただきたく思いましたが、残念ながらかなわぬ夢となりました。

しかし、私自身もこの一年間にオンラインでの学会及び研修会への参加を通じてオンラインの良さも体験することができました。今までと異なり、移動時間がゼロですので、勤務を休まずに学会参加が可能となりました。この点は開業されている、あるいは子育て中の会員の先生方にはより学会に参加しやすい環境になったのではないかと思います。

また、今回は「コロナ時代を飛翔するメタルフリー歯科医療」をテーマとして、7 つの講演が行われます。本間理事長の「メタルフリー歯科学会10 年を振り返って」から始まり、歯科医学の各分野の先生方からのメタルフリーに関するアップデートな講演内容で、まさにメタルフリーの全範囲を包括する内容となっております。そのため、会員歴の長い先生はもちろんのこと、初めてのメタルフリー歯科学会に参加される会員の方々にも我が国のメタルフリーの動向が良く理解できる絶好の機会と考え
ます。

新型コロナウイルスに関してはまだまだ気を引き締めなければならない状況ですが、11 月21 日の大会が会員の皆様方にとりまして、充実した素晴らしい一日となってくれることと思います。オンライン上ではありますが、一人でも多くの先生方とお会いできることを願っております。

理事長ご挨拶

理事長第12回 日本メタルフリー歯科学会
学術大会に寄せて

 

一般社団法人日本メタルフリー歯科学会
理事長 本間 憲章

 

新型コロナの影響で 社会は混乱し世界中が閉塞感に覆われています。
4 年に一度のオリンピック・パラリンピックも、1 年遅れで何とか開催できました。
無観客で行うというので、主催者は戸惑い、スポンサー企業も落胆したことでしょう。
各選手達は、せっかくのパフォーマンスを無観客の中で行うというのでは、残念だったことでしょう。

さて我々の学会学術大会というのは 主催する大学が会場を決定して、会員がそこへ集い、親睦を深めながら 各演者の生の講演を聞いて、勉強するのが通例です。しかしご時世が許さない状況でWeb での開催ということになりました。
私個人的には、恩師の東京女子医大口腔外科村瀬正雄教授が初代学長を務めた奥羽大学(旧東北歯科大学)は、懐かしいとともに、お世話になった足立教授、高井教授の面影が浮かび、設立当時の思い出が沢山あり、ぜひとも久しぶりに訪れてみたいキャンパスでした。残念です。

演者の諸先生も、コンピューターに向かって、しゃべるだけで、聴衆の反応がわからない状態では味気ないですね。まことに残念です。どこの学術大会もWeb 開催となってしまった社会状況下では、仕方がないのでしょう。そのために 出席者数も少なくなるのではと思います。スタッフを同伴して、福利厚生を兼ねて、旅行気分で学術大会の会場に行く先生もおられました。

演者の諸先生方、慣れないパソコンでの操作や、画面での講演では、様々なお気持ちがあるのではと思います。
歯科界もかなり混乱するでしょう。この新型コロナ禍で、患者減少で経営困難になっている開業医もいることを耳にしています。
早く経済状況が回復して、早く元通りの生活ができる事を祈っております。

理事長講演

メタルフリー歯科学会10 年を振り返って

本間憲章 先生

一般社団法人日本メタルフリー歯科学会
理事長 本間 憲章

 

 

当学会は2009 年11 月29 日 日本歯科大学生命歯学部富士見ホールにおいて日本メタルフリー歯科臨床学会として設立総会を行い、ニューヨーク大学の審美歯科教授を招聘して学術大会を行ったのが始まりです。第1 回の演者は学会HP 学術大会レポートをご覧ください。
ウィンディ・ソフトメディアサービスの渡辺やすあき氏に依頼し写真撮影他学会ホームページを作成して頂き、現在では、僕の中学高校の後輩でもある常任理事 清水雄一郎先生が新しくコラボして作成して頂いており、見事なホームページがアップされております。
最近では学術大会レポートなるページも完成し、この10 年間の活動記録は、渡辺&清水常任理事作成HP をぜひご覧頂きたいと思います。お二人の見事な仕事に感謝です。

ニューヨーク大学のDr. K.Michael Ghalili 教授に講演して頂く機会はどこかでないかと同級生の日本歯科大学白川正順教授に相談したのがきっかけで、それでは新しく学会を作ってそこでお願いしようと話がまとまり、学会名はメタルフリー歯科臨床学会でいこうとなりました。設立総会で愛知学院大学歯学部高齢者歯科学講座の服部正巳教授にも設立発起人に加わって頂き、学会事務局は、僕の診療所内に置き、第5 回までは(医)本間歯科事務局内で行ってきました。
その後、日本メタルフリー歯科学会と改称し、一般社団法人化して学会事務局を(株)学術社に委託しました。現在では、歯科医師会員他に医師、歯科衛生士 歯科技工士会員も併せて300 名近くになりました。学会会員数を多くせよと願う役員もおりますが、大学関係者以外の会員は、認定医取得してみると、希少価値の認定医のほうがメリットもあると考えるのか? 積極的に知人友人を入会勧誘する人は少ないのではと考えもします。大学関係者の所属する教室では、必須の学会に入会してい
ると、経済的にも時間的にも厳しいと考える方も出てくるのかなと考えております。

現在の学会ホームページでは、認定医の診療所にリンクして、所属する診療所のPR も可能になっております。金属アレルギーの話題が報道されると、当学会の事を知り、所属する歯科医に患者が来るとか、皮膚科の先生から紹介して下さる事例が多くなると、入会していて良かったと思えるでしょう。
我々の診療所の認定医に紹介されてきた患者の症例も紹介もしてみたい。金属アレルギーで苦しんだ青年の一例を診たなら、これからの時代は、我々の学会が益々、存在価値を再認識することでしょう。

Befor After

略  歴

暁星学園高校卒,日本歯科大学卒業後,東京女子医大口腔外科学教室へ入局,村瀬正雄教授,河西一秀教授に師事. その後,米国ミシガン大学に留学,更にカナダに渡り, マギル大学付属モントリオール ジェネラルホスピタルに勤務.
Dr.Keneth.C.Bentley に師事.救急歯科外来を中心に口腔外科Osteotomy の研鑽を積む.北米生活3年半の後帰国.千葉市にて開業,千葉県内に5 ヶ所の歯科医院を開設し,現在,医療法人社団 本間歯科の理事長,ならびに医療法人 千寿会 理事を務める.
日本顎顔面インプラント学会 運営審議委員 ICOI 国際インプラント学会指導医.アジア太平洋地区 認定医 審査委員を歴任 日本口腔外科学会会員 日本口腔インプラント学会会員 暁星歯学会 会長 スイス メタルフリーインプラントZ-Systems 社 認定指導医.
医学博士 ICD 国際歯科学士会Fellow, 日本メタルフリー歯科学会,理事長
日本歯科大学非常勤講師 臨床講師歴任
日本歯科大学附属病院 総合診療科 臨床教授 歴任.

大会長講演

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死に対する
サイトカイン産生制御による予防と治療の試み

清浦 有祐 先生

奥羽大学大学院歯学研究科研究科長
奥羽大学歯学部口腔病態解析制御学講座主任教授
清浦 有祐

 

骨吸収抑制薬は、高齢者を中心とした骨粗鬆症患者に広く使用されている薬剤である。そのため、さまざまな歯科疾患のために歯科医院を受診する者の中にはこの薬剤を投与されている者も当然含まれることになる。

骨吸収抑制薬を投与中に抜歯やその他の口腔内の小手術を受けた患者が、その後に顎骨の骨髄炎や壊死を生じることが海外のみならず本邦においても報告されるようになった。当初は骨吸収抑制薬の中でもビスホスホネート系薬剤投与後に起こることから、ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死(BRONJ)と呼ばれてきた。しかし、現在は骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)と呼ばれるようになった。これは、ビスホスホネート以外にもデノスマブという作用メカニズムは異なるが、同じ骨吸収抑
制薬も顎骨の骨髄炎や壊死を生じる薬剤も出現したことから、どちらも含めた形で骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)と言われている。

我々の研究グループは、ビスホスホネート系薬剤が顎骨骨髄炎・壊死を起こす理由の一つとして、炎症性サイトカインの過剰産生を考えている。ARONJ は抜歯や口腔内の小手術後に発症することが多い。
これらの手術侵襲によって、口腔細菌が骨内に侵入して炎症性サイトカインが産生される。したがって、産生される炎症性サイトカインの量や種類が大きく関係する。具体的に説明すると以下のようになる。

まず、ビスホスホネート系薬剤には窒素含有ビスホスホネート系薬剤と窒素非含有ビスホスホネート系薬剤の2 つに分けられるが、ARONJ を起こすのは窒素含有ビスホスホネート系薬剤に限定される。窒素非含有ビスホスホネート系薬剤では、ARONJ を起こすことないとされている。したがって、この2 つの薬剤の違いを明らかにすることがARONJ の予防と治療につながる知見を明らかにできると考えられる。

我々は一つの可能性として炎症性サイトカイン産生能の違いが、この結果に関係すると考えた。すなわち、窒素含有ビスホスホネート系薬剤は炎症性サイトカイン産生を亢進し、窒素非含有ビスホスホネート系薬剤は炎症性サイトカイン産生を抑制する考えた。それを明らかにするために、in vitro における細胞培養系の実験システムを用いて実験を行った。

その結果、代表的な窒素非含有ビスホスホネート系薬剤であるエチドロネートは、炎症性サイトカイン産生を抑制することを認めた。そこで、どのようなメカニズムによってこのような抑制が起こるのかを検討した。その結果、エチドロネートは免疫細胞のMyD88 発現とNF-κB 活性化を抑制することを認め、このことによって炎症性サイトカインの産生が抑制されることを明らかにした。

現在、SAR-CoV-2 感染による新型コロナウイルス感染症においては、炎症性サイトカインの過剰産生によるサイトカインストームが重症化に関わっているとされる。このような窒素非含有ビスホスホネート系薬剤で炎症性サイトカイン産生を抑制できることは、新型コロナウイルス感染症の新たな治療法を開発できると考えられる。

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略  歴

1980年 東北歯科大学(現奥羽大学歯学部)卒業
1986年 東京女子医科大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)
1987年 東北歯科大学(現奥羽大学歯学部)歯科保存学講座 助手
1988年 東北歯科大学(現奥羽大学歯学部)歯科保存学講座 講師
1989年 米国ハーバード大学歯学部博士研究員
1997年 米国ルイジアナ州立大学メディカルセンター客員准教授
2000年 奥羽大学歯学部口腔細菌学講座 助教授
2004年 奥羽大学歯学部口腔病態解析制御学講座 教授
2013年 奥羽大学大学院歯学研究科長 現在に至る

指名講演1

メタルフリーによる包括的な審美修復治療を行なった一症例

川原  淳 先生

日本歯科大学生命歯学部附属病院総合診療科 臨床講師
医療法人社団川原歯科医院 理事長
川原  淳

 

 

近年の審美修復治療におけるメタルフリーの材料や治療法の開発は、多岐に亘り急速に進化している。その「審美」に求める「美しさ」には、機能、生物学的な恒常性、構造力学の要素に加え、最後に患者の満足が得られてこそ審美修復治療の成功と言えるだろう。それには、患者と多くのディスカッションを行い、現在に至る心理状況などの十分な理解と、歯科技工士と早い段階から情報共有や連携をとることが不可欠となる。また複雑な症例になると、包括的な診査、診断、治療計画の立案から慎
重かつ確実な治療の遂行、プロビジョナルレストレーションを用いた最終補綴のシュミレーションと再評価のステップが重要となり、その結果、長期安定に繋がると考えている。

今回私は、抜歯矯正治療の既往がある審美性の改善を主訴に来院された成人女性に対し、患者の理想とする治療のゴールを目指して包括的なメタルフリー治療を行なった症例を発表させて頂き、諸先生方からのご批判、ご指導を承りたい。

スライド2スライド1略  歴

1993年 日本歯科大学卒業
同年 川原歯科医院勤務
1999年 カトウ矯正歯科クリニック勤務
2013年 日本メタルフリー歯科学会 認定医取得
2020年 日本歯科大学総合診療科 臨床講師

特別講演

メタルフリーにより改善傾向を示す口腔扁平苔癬
口腔扁平苔癬の病態を考える森  一将 先生

 

明海大学歯学部大学院歯学研究科 大学院准教授
森  一将

 口腔扁平苔癬は、鉄欠乏性嚥下困難症、口腔粘膜下線維症、梅毒とともに前癌状態に分類されていたが、前癌病変(白板症や紅板症)との概念の違いがわかりにくいことなどから、2017 年度改訂のWHO 頭頸部腫瘍分類(第4 版)で、両者を統合させ、口腔潜在的悪性疾患(oral potentially malignant disorders: OPMDs)(表1)
と改称され分類されることとなった。口腔扁平苔癬は日常臨床において比較的遭遇することが多く、その病態は慢性炎症性粘膜疾患とされていることから、一般歯科においても臨床診断から、ステロイド軟膏の塗布や口腔衛生管理などにより経過観察している症例が多いと考えられる。しかし口腔扁平苔癬は、臨床病型が多彩(網状型、斑状型、丘疹型、びらん(潰瘍)型、萎縮型および水疱型)で、他のOPMDs やその他の粘膜疾患の臨床像と極めて類似していることも少なくなく、全身疾患(GVHD,C 型肝炎など)の一症状として口腔内に発症している(厳密には口腔扁平苔癬様所見:OLL)と上皮性異形成を伴う(扁平苔癬異形成症:LD)のこともある。
また悪性化率(0.36 〜 3.5% Fitzpatrick, et al: JADA 145(1): 45-56, 2014.)は諸説報告されているが、口腔扁平苔癬と臨床診断し経過観察したところ、その後の精査で口腔癌であることが判明し、初期の口腔癌を見逃してしまったとする症例も散見される。このことから本症の癌化傾向の強い病型や全身疾患との関係についての
症例検討は重要と考える。

そこで本講演では、口腔扁平苔癬の臨床病型、病理および潜在的悪性疾患としての
口腔扁平苔癬はどのような病態なのかをいくつかの症例を供覧しお話ししたいと考えている。また、メタルフリーの観点からは、金属除去により改善傾向を示す口腔扁平苔癬と比較し改善しない口腔扁平苔癬に、何か違いがあるのか探求してみたいと思う。そしてこの講演が明日からの医療に少しでも役に立てればと考えている。

表1 口腔潜在的悪性疾患(oral potentially malignant disorders:OPMDs)
1 .紅板症
2 .紅板白板症
3 .白板症
4 .口腔粘膜下線維症
5 .先天性角化不全症
6 .無煙タバコ角化症
7 .リバーススモーキングに関連した口蓋病変
8 .慢性カンジダ症
9 .扁平苔癬
10.円板状エリテマトーデス
11.梅毒性舌炎
12.日光角化症(口唇のみ)
1. 2.:従来の前癌病変 4. 9. 10. 11.:従来の前癌状態

略  歴

1993年 明海大学歯学部歯学科 卒業
2000年 歯学博士(明海大学)
2014年 武蔵野大学人間科学部言語聴覚士課程 非常勤講師
2016年 日本口腔外科学会 代議員
2017年 明海大学歯学部病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学分野1 准教授
2018年 明海大学歯学部大学院歯学研究科 大学院准教授
現在に至る
専門医:
日本口腔外科学会 認定医(専門医)
日本口腔外科学会 指導医
日本口腔科学会 認定医
日本口腔科学会 指導医
受賞歴:
2003年 第48 回日本口腔外科学会総会 優秀ポスター賞・学会賞
「lichenoid dysplasia の臨床的検討」
2008年 第53 回日本口腔外科学会総会 ゴールドリボン賞・学会賞
「新規アポトーシス制御因子GRIM-19 の口腔癌細胞における発現」
2016年 明海大学歯学部 2016 年度優秀論文賞
「Tumor-associated macrophages in oral premalignant lesions coexpress
CD163 and STAT1 in a Th1-dominated microenvironment.」
BMC Cancer15, 15, 573, 2015
2021年 明海歯科医学会 第44 回学術大会 優秀賞
「口腔癌における腫瘍関連マクロファージの分化誘導に関わる浸潤T 細胞の検討」

教育講演

川村 浩樹 先生メタルフリー修復治療の歯周病学的考察

川村歯科医院 院長
川村 浩樹

 

 

近年、メタルフリー修復の発展は目覚ましいものがあり、日常臨床に於いてそれらの修復法を選択することも多くなってきている。それらを必要とする患者の中には、う蝕や破折による歯冠修復、欠損補綴を必要とする場合も多い。また、それとは異なり国民病とも云われている歯周病を罹患している患者も多数存在する。歯周病の本態は細菌感染症であり、中等度から重度の歯周炎では、歯周組織にアタッチメントロス、歯槽骨の吸収などの変化が起こる。重度の歯周炎では、歯の欠損を伴うことも多い。

歯周病によるこれらの歯肉退縮や歯の欠損に対し、機能的にはもちろんのこと、審美的な修復を必要とする場合も多く存在する。さらにはこれらのう蝕、破折などと歯周病の両方に罹患しており、修復、欠損補綴を必要とする場合も多く認められる。

歯周病に罹患した歯の修復の時期は、歯周病治癒後、または病状安定期に行うのが原則であるが、前述のように歯周病の結果、周組織が健常者のそれとは異なっている。そのような歯の修復については、健康な歯周組織を持つ歯の修復とは異なる注意が必要である。それらの患者に対し、審美修復やメタルフリー修復を行う際には、歯周病や審美修復に対しての知識が必要なことはもちろん、その他にも、歯周病に特有の様々な問題を考慮する必要がある。

また、修復物の材質とプラークコントロールの問題、修復物の歯冠の形態、隣接面形態、コンタクトの位置、マージンの位置、生物学的幅径との関係、ブラックトライアングルへの対応、清掃、管理の方法など上げていくと多くの問題がある。
今回の講演ではそれらについて、最新の知見を踏まえ、症例を交えて解説を試みる所存である。

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略  歴

1989年 日本歯科大学新潟歯学部 卒業
1993年 日本歯科大学大学院歯学研究科博士課程 修了
1993年 日本歯科大学歯学部歯周病学教室 臨床研究生
1994年 日本歯科大学歯学部歯周病学教室 助手
2001年 日本歯科大学歯学部附属病院総合診療科 助手
2002年 日本歯科大学歯学部附属病院総合診療科 講師
2007年 日本歯科大学生命歯学部附属病院総合診療科 准教授
2010年 日本歯科大学生命歯学部附属病院歯周治療チーム併任
2012年 日本歯科大学生命歯学部附属病院口腔アレルギー外来併任
2020年 川村歯科医院 院長
日本歯科大学附属病院総合診療科 臨床准教授
日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座 非常勤講師
所属学会:
日本歯周病学会(評議員)
日本有病者歯科医療学会(代議員)
American Academy of Periodontology(International member)
日本口腔機能水学会(常任理事)
日本メタルフリー歯科学会
口腔科学会 他
資  格:
博士(歯学)
NPO 特定非営利活動法人日本歯周病学会 歯周病専門医・指導医
日本有病者歯科医療学会 専門医
日本口腔機能水学会 指導医
社会活動:
2009~2018年 東京都国民健康保険団体連合会診療報酬審査委員
2010年~   日本ACLS 協会 BLS インストラクター
受  賞:
1997年 第6 回国際歯周病学会(IAP)歯周病基礎部門最優秀賞

指名講演2

メタルフリー治療推進における歯科衛生士の役割

宮田 夏絵 先生

宮田歯科クリニック
歯科衛生士 宮田 夏絵

 

 

これまで演者は、開業医において、金属アレルギーが疑われる掌蹠膿疱症やアトピー性皮膚炎をかかえる患者さんたちの訴えを聴き、金属歯科修復物の除去の予後を観察してまいりましたが、皮膚科との連携および大学病院などへの治療の依頼、更に歯性慢性疾患の治療を行っても、寛解しない例が一定数みられました。金属アレルギーに一旦罹患してしまった場合の患者さんの治療の難しさを実感しております。

そういったことから、金属アレルギーの症状がでてから治療するだけでなく、それ以前にアレルギーに関するスクリーニングを行い、メタルフリー治療を推進することで、金属アレルギー発症の予防を行っていくことは、開業医においてできることのひとつであり、また歯科衛生士の大切な役割でもあると認識するようになりました。今回は当院で、そのために取り組んでいることを、具体的にお話しさせていただきます。

メタルフリー治療推進においての歯科衛生士の役割は、医療面接のための情報収集、医科との連携のための資料作成、患者さんへの説明と相談、金属イオンを流出させないためのメインテナンスなど多岐に渉ります。その中で、日頃のメインテナンスで定期的に患者さんと接している歯科衛生士が、疾病予防のための情報収集ができるかどうかは大切なことです。特に粘膜病変の早期発見、および既往症の医療面接は、アレルギーのリスクをスクリーニングする上で、重要な役割を果たします。
更に、医療面接を成功させるためには、基本的な知識を院内で共有していかなくてはなりません。

当院でも、院内での研修会を通じて歯科衛生士の知識のボトムアップを試みております。その中では歯科アレルギーがⅣ型であることや、メタルの種類によってアレルゲンになりやすさが違うこと、人間は金属がなくては生存できないこと、どのような補綴物の状態がアレルギーを引き起こしやすいのかなどの基礎的知識を勉強しております。模索中ではありますが、一例として参考にしていただけたら幸いでございます。

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略  歴

学歴・学位:
聖心女子大学 外国語文学科英語英文学 英文学学位
取手歯科衛生専門学校 歯科衛生士免許
職 歴:
1984〜1991年 鐘紡(株)国際事業部
1992年    宮田歯科クリニック開院
所属学会など:
日本メタルフリー歯科学会理事/ 認定歯科衛生士
日本アンチエイジング歯科学会理事/ 認定歯科衛生士
日本歯周病学会
日本口腔ケア学会
日本先進インプラント学会
日本歯科麻酔学会

指名講演3

歯科材料によるアレルギー患者・医療従事者の環境

瀧井 泉美 先生

愛知学院大学歯学部附属病院口腔金属アレルギー外来 科長
瀧井 泉美

 

現在、金属アレルギーの検査試薬は、2015 年5 月に佐藤製薬株式会社より、簡便にできる検査キッドが発売され、従来の鳥居薬品株式会社の検査試薬と2 種類となりました。それぞれの検査試薬には特徴があり、検査結果を利用し、治療にあたる我々はその特徴を知っておかなければなりません。また近年ではジェルネイルの流行と共にレジンのアレルギーにも注意が必要となっています。

歯科材料に対するアレルギーは患者患者だけの問題ではありません。歯科医師だけでなく歯科衛生士や歯科技工士などコメディカルの対応も必要です。診療に際しては歯科材料をはじめグローブにも注意が必要です。また技工操作においては鋳造時に使用する「ルツボ」や研磨時に用いる技工用バーなどにまで配慮が必要となります。また技工所そのものの換気環境にも気を配らなければなりません。
職場環境も整えなければ、我々が職業アレルギーとなる可能性も高くなります。それぞれの立場の環境問題についてお話をさせて頂きます。

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略  歴

1997年3 月 愛知学院大学歯学部歯学科 卒業
2011年3 月 博士(歯学)の学位取得
2007年4 月 愛知学院大学歯学部 歯科補綴学第二講座
(現 高齢者・在宅歯科医療学講座)助教
2001年1 月 愛知学院大学歯学部附属病院特殊外来口腔金属アレルギー外来医員
(現在に至る)
2015年9 月 愛知学院大学歯学部高齢者・在宅歯科医療学講座講師(現在に至る)
2017年4 月 愛知学院大学歯学部附属病院口腔金属アレルギー外来科長
(現在に至る)
代表的所属学会・役職等:
日本補綴歯科学会
日本老年歯科医学会
日本口腔ケア学会(評議員)
日本メタルフリー歯科学会(常任理事)
日本皮膚免疫アレルギー学会

一般口演抄録1

上顎前歯部にデジタル技術を用いてオールセラミック修復を行った1症例

髙松雄一郎 先生高松歯科医院
○髙松雄一郎
一般口演抄録1
A case of all-ceramic restoration of the maxillary
anterior teeth using digital technology
Takamatsu Dental Office
○TAKAMATSU Yuichiro

目   的
2014 年に保険収載されたCAD/CAM 冠は、現在までに対象歯も拡大され、メタルフリーの歯科治療がより身近なものになった。また、我が国では、超高齢社会となり歯科医療従事者の減少が危惧されている。より良質な歯科医療を永続的に提供するには人材の確保とともに生産性の向上を目指す必要性がある。そのひとつの手段としてデジタル技術の活用があげられるが、CAD/CAM 冠やジルコニアをはじめとするメタルフリーのマテリアルの加工には、多くのデジタル技術が用いられる。また、現在のコロナ禍において、ICT 技術の普及が加速化したが、歯科治療においてもその活用が期待されている。今回は,デジタル技術を用いてより効果的に前歯部補綴修復治療を行った症例を報告する。

対象と方法
30 歳代.女性.患者の主訴は上の前歯をきれいに治したいとのこと。不揃いの硬質レジン前装冠が装着されており、う蝕の再発を認めた。オールセラミックを使用したメタルフリー補綴修復治療をデジタル技術を用いて行うこととした。初期治療を行うとともに、それぞれの支台歯に補綴前処置を行った。支台歯形成後にIOS を用いてプロビジョナルレストレーションのためのスキャニングを行なった。歯科技工士にデータを送信し、顔貌写真と口腔内スキャンデータをマッチングさせ、顔貌主導にてプロビジョナルの形態をデザインした。ICT 技術を活用して患者、歯科技工士、歯科
医師でコミュニケーションをとり、目標とする最終形態のデザインを共有し、プロビジョナルを作製した。
装着されたプロビジョナルの審美性を患者に確認してもらい、概ね問題がなく希望の通りであることを確認した。口腔内で咬合調整を行い、経過観察により安定性を確認した。その形態をスキャニングしてコピーを行い、最終補綴物を作製し、防湿下に接着用レジンセメントを用いて接着した。

結   果
ICT 技術を用いることで、歯科技工士は、いわゆる立会いをするために歯科医院に出向かなくとも、非対面形式で技工物のデザインを患者と共有することができた。患者は、共有されたシミュレーションにおいて、自身の希望を歯科技工士、歯科医師に伝えることができた。IOS およびCAD/CAM を用いて、デジタルが得意とするコピーを用いることで、効率的に補綴物を装着することができた。

考察および結論
メタルフリーデンティストリーとデジタルデンティストリーは親和性が高く、これからの歯科医療での需要が増加すると考えられる。使用マテリアルとIOS ならびにCAD/CAM においても、利点欠点やその特徴を適切に把握し使用することが歯の寿命を延伸させ、ひいては歯科材料に対するアレルギーの予防や治療においても重要であると考えられる。歯科においてもデジタルトランスフォーメーションにより新たな付加価値を生み、より効果的に補綴修復治療を行うことができることが示唆された。

参考文献
1) Tabias Otto, et al.: Clinical Results from a Long
Term Case Series using Chairside CEREC CADCAM
Inlays and Onlays. The International Journal
of Prosthodontics, 21: 53-59, 2008.
2) 厚生労働省:第3 回歯科医療提供体制等に関する検
討会,資料2 2021 年7 月29 日.
3) 総務省:平成30 年版 情報通信白書,第1 部.2-5.

一般口演抄録2

歯科材料によるアレルギー症例への歯科技工士の対応

中村 美保 先生日本歯科大学附属病院 歯科技工室
○中村 美保,内藤  明,飯島 孝守
一般口演抄録2
Dental technologies for contact dermatitis
Section of Dental Technology, The Nippon Dental University Hospital,Tokyo, Japan
○NAKAMURA Miho, NAITO Akira, IIJIMA Takamori

目   的
歯科金属や歯科材料によるアレルギー症状をもつ患者に対しての治療計画に基づいて、使用可能な歯科材料は何か、その歯科材料を使用してどのような補綴装置を製作したら良いのかを歯科医師と共に検討し、治療計画を立案、補綴装置を製作した症例の概要を報告する。
また、日進月歩で進化する歯科材料や補綴装置の多様性について考察する。

症   例
患者は62 歳、女性。自身を金属アレルギーと疑い、パッチテストを希望して当院を受診、パラジウムを含む8種類の金属に偽陽性を示したため、口腔内のメタルフ
リー化を計画した。最初に下顎右側第一大臼歯のメタルインレーをコンポジットレジンインレーに変更したところ、口腔内当該部頰粘膜に疼痛、発赤が発現した。
レジン材料によるアレルギー性接触皮膚炎が疑われたため、補綴の際に使用したレジン材料を含む、レジン材料6 種類、セメント5 種類、合計11 種類のパッチテストを実施した1)(表)。

レジン材料では2 種類が陽性、2 種類が偽陽性、2 種類が陰性となった。
セメント材料では3 種類が陽性、2 種類が陰性となった。
担当医と共に検討し、メタルインレーからの置換時に使用したレジン材料は陰性であったことから、その合着に使用したセメントが疼痛などの原因の一つではないかと推測した。そこで、セメントには陰性を示したHEMA フリーセメントを使用することとした。
その後、他部位の金属補綴装置においても順次メタルフリー補綴装置に置換を進めた。その際、暫間被覆冠の製作に多用される常温重合レジンに偽陽性および陽性を示したため、暫間被覆冠は使用せずに陰性となったレジン材料とファイバーポストを用いて歯冠継続歯を製作した。

結   果
経過観察を行いながら、メタルフリー補綴装置製作に前述の材料を用いて再補綴した結果、口腔内の疼痛、発赤の症状は軽減した。その後、症状の再燃は見られていない。

考察および結論
金属アレルギーが疑われ、メタルフリー補綴装置への置換を検討する際には、可能であるならば今後使用する可能性がある歯科材料において複数種類のパッチテストを行うことが望ましい。
そして、その結果を踏まえて歯科技工士は使用可能な歯科材料や補綴装置について十分に把握しておく必要がある。
また、今回の症例では主にレジン材料で補綴装置を製作したが、歯科技工のデジタル化推進により、CAD/CAM による補綴装置の選択肢が広がった2)。
このことは今後のアレルギー症例への対応において、メタルフリー治療の可能性が多岐にわたるようになることを示唆していると思われる。

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参考文献
1) 高山かおる,他:接触皮膚炎診療ガイドライン
2020,日皮会誌.130: 523-567, 2020.
2) 伊藤彰英,他:Digital Labo Style 実例から学ぶラ
ボのデジタル化.医歯薬出版,東京:2020.
表 パッチテスト試料一覧
試薬品名用途%
クリアフィル® CR インレー(クラレ) 歯冠修復用レジンas is
エステニア® C&B(クラレ) 歯冠修復用レジンas is
セラマージュ(GC) 歯冠修復用レジンas is
ソリデックス(松風) 歯冠修復用レジンas is
プロビナイス(松風) 即時重合レジン2%pet
ユニファスト(GC) 即時重合レジン2%pet
スーパーボンド(サンメディカル) 接着剤as is
フジルーティングS(GC) 接着剤as is
G ルーティング(GC) 接着剤as is
クリアフィル® SA ルーティング(クラレ) 接着剤as is
リライエックスTM ユニセム(3M) 接着剤as is

一般口演抄録3

CAD/CAM システムを用いたインプラント上部構造の製作工程

飯島 孝守 先生日本歯科大学附属病院 歯科技工室
○飯島 孝守,内藤  明,中村 美保
一般口演抄録3
Manufacturing process of implant superstructure
using CAD/CAM system
Section of Dental Technology, The Nippon Dental University Hospital, Tokyo, Japan
○IIJIMA Takamori, NAITO Akira, NAKAMURA Miho

目   的
近年、歯科のデジタル化が進み、CAD/CAM 機器の性能やジルコニアをはじめとする材料の性質は向上し、補綴装置のメタルフリー化に寄与している。インプラ
ント治療においてもCAD/CAM システムや3D プリンターが必要不可欠となってきているため、上部構造を製作する際、歯科技工のデジタル化への対応が求められる1)。
そこで日本歯科大学附属病院におけるCAD/CAM システムを用いたインプラント上部構造の製作工程を紹介する。

方   法
① インプラントレベルで印象採得されたトレーに石膏を注入し、模型製作後、インプラント部周囲のガムの調整を行う。
② デンツプライシロナ株式会社デジタルデンタルソリューションセンター東京(以下、DDSC)に模型を送付し、カスタムアバットメントを製作依頼。後日、ウェブ上の3D エディターで設計されたアバットメントの形態を確認、編集、認証を行う。認証後、加工に進む。
③ カスタムアバットメント認証後、ジルコニアフレームの設計を3shape Order Exchange Format Data(以下,3oxz データ)を用いて行う。
④ ジルコニアフレームのステイニング、グレージング行う。
⑤ 模型、アバットメント、位置確認用ジグが納品される。
スクリューリテインの場合、アバットメントとジルコニアフレームのセメンティングを行い、完成とする。

結   果
ウェブ上でカスタムアバットメントのデザインを確認、編集することによって、従来の既成アバットメントを用いた方法や、レジンアップを行いアバットメントの製作をする方法と比較し、大幅に技工作業の簡略化が可能となった。またコアファイルを使用することにより、DDSC でアバットメントを加工している間に同時進行でジルコニアフレームをPC 上で設計、加工を行うことが可能となり時間を有効的に使うことができた。

考察および結論
従来の方法で製作するアバットメントとDDSC でカスタムアバットメントを製作することの違いは、製作工程だけではなく、出来上がったアバットメントの形態やフレームの適合精度など、CAD/CAM だからこそ容易に操作できる設計にあると考える。
従来の方法でアバットメントを製作する場合、ある程度の平行性やマージン部の設定はできるが、歯科技工士の感覚に頼らざるを得ない作業であった。一方、CAD/CAM で製作する場合、製作を依頼する際にPC上で細かい設定を数値で指定することができ、デザインされたアバットメントの形態を確認、編集時に容易に変更することが可能である。このことは歯科技工士の作業効率を大幅に改善することにつながり、作業時間の短縮を図ることができた。
また、3oxz データを用いたジルコニアフレームの設計では、歯科技工士が従来、手作業で行っていた作業を PC 上でいかに再現できるかが重要になり、PC 上で
の設計技術が求められる。
CAD/CAM システムを用いるメタルフリー補綴装置の症例が多くなりつつある現在、歯科医師や歯科技工士にはデジタル化に関する知識や技術が求められ、常に情報を収集し、最新の技術に対応する必要があると考える。

参考文献
1) 関根秀志,他:インプラント技工のメインストリーム.
歯科技工別冊,医歯薬出版,東京:2021.

一般口演抄録4

世界のメタルフリーインプラントと症例報告

World Metal Free Implants and Case Reports
医療法人社団本間歯科 オリエント歯科クリニック
Dr. HONMA’S DENTAL CLINIC Orient Dental Clinic
○本間 憲二
○HONMA Kenji

目   的
近年、インプラント治療が補綴治療の選択肢のひとつとして定着し、多くの歯科医院で行われている。インプラント治療を行った患者が増加している一方、生体親和性に優れたチタンに対するアレルギーが報告されている1)。
そこで、インプラント体の材料はチタンだけではない2)ことを考え、世界で発表されているチタン以外の材料を調べた。そこで、本邦では報告が少ない「ジルコニア製」のインプラントに着目した。
今回われわれは、ジルコニア製のインプラント体を3 本埋入した症例について、良好な結果が得られたので、新旧2種類のうち、新しいツーピースタイプのインプラントを中心に報告をする。

対象と方法
患 者:56 歳,女性
主 訴:口腔内に金属を入れたくない.
既往歴:特記すべき事項なし.
現病歴:2012 年4 月,う蝕治療希望し本診療所へ来院した.
経 過:全顎的なう蝕治療および歯周治療を行っていたところ、2016 年6 月に#37 に歯根破折を認め抜歯。ブリッジの支台歯であったことから#35, 36 部ポンティックも除去。インプラント治療を希望し、同年9 月に#35, 36 部にジルコニア製インプラント(ZSystems 社製,Z3Evo-40-11-A)を埋入した。2017 年5 月インプラント上部構造装着。以降、定期的な歯周治療を行っていたが、2019 年9 月に#44 に歯根破折を認め抜歯。2020 年1 月パノラマエックス線写真を撮影し、抜歯窩の骨形成を確認。同年10 月に初診時と同様の理由から、#44 部にジルコニア製インプラント(ZSystems社製,Z5-BL-4010,直径4.0mm,長さ10mm)を埋入した。
術後はペニシリン抗菌薬を3 日間処方した。2021 年4 月に二次手術を行いアバットメント装着。同年6 月にインプラント上部構造を装着した。
同年9 月に経過観察のために来院し、歯肉退縮は認められず、発赤や腫脹等の炎症所見も認められなかったことから、良好と判断された。

結   果
今回報告した症例において、ジルコニア製インプラントを埋入し、上部構造装着後3 か月を経過した現在においても、良好なオッセオインテグレーションを獲得している。

考察および結論
インプラント体の材料として、生体親和性に優れていることから、チタンが主流とされてきた。しかしながら、チタンに対するアレルギーが報告されはじめ、特に他の金属に対するアレルギーをもつ患者でのチタンに対する陽性率が高くなったという報告も散見された。そこで、われわれはチタンと同様に生体内不活性材料であり、口腔内に多く使われているセラミック材料の「ジルコニア」に着目した。
本症例のジルコニア製インプラントに関して、埋入後、上部構造装着まで8 か月の期間をおいた。ジルコニアはチタンと同様にオッセオインテグレーションを獲得するが、骨との接触率においてチタンが勝ること3)を考え、チタン製インプラントに要する期間より長めに設定した。埋入後と比較し、術後6 か月のエックス線写真において骨の喪失は認められなかった。そして、インプラント体の動揺もなくオッセオインテグレーションの獲得はなされたと考えた。
また、今回の症例において、2016 年に埋入したジルコニア製インプラントはエックス線写真において、限局的な骨の喪失は認められないことから、長期的予後についても考察でき、予後は十分であると考えられた。
よって、ジルコニア製インプラントはオッセオインテグレーションの獲得がなされ、中長期、長期経過においても安定しているといえる。
今後の課題として、既存のチタン製インプラントと同様により短い期間での荷重負担が可能となるよう、更なる研究が進むことを期待したい。
以上のことから、メタルフリー歯科治療におけるインプラント材料として、チタンだけではなくジルコニアという選択肢を選ぶことは、必要十分である。

参考文献
1) 北川雅恵,安藤俊範,大林真理子,他:歯科用金属アレルギーの動向―過去10 年間に広島大学病院歯科でパッ
チテストも行った患者データの解析―.日本口腔検査学
会雑誌,4: 23-29, 2012.
2) 赤川安正,松浦正朗,矢谷博文:よくわかる口腔インプ
ラント学,第1 版,医歯薬出版,東京,2010,37-46.
3) Dieter D.B, Vivianne C, Daniel B: Osseointegration of
titanium, titanium alloy and zirconia dental implants:
current knowledge and open questions. Periodontology
2000, 73: 22-40, 2017.

協賛企業一覧

出展企業

株式会社日本歯科商社
株式会社ヨシダ

広告掲載企業

株式会社ジーシー
株式会社トクヤマデンタル
和田精密歯研株式会社

協賛企業

株式会社モリタ
スイス Z-Systems AG アジア駐在事務所