2017年11月26日 東京
東京歯科大学水道橋校舎 本館

東京歯科大学水道橋校舎 本館

東京歯科大学水道橋校舎 本館において、活況のうちに行われました。

理事長 ごあいさつ 「第9回日本メタルフリー歯科学会学術大会によせて」
一般社団法人日本メタルフリー歯科学会 理事長 本間憲章

今年は、局地的豪雨、台風、等、自然災害の多い年であったような気が致します。
被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。地球温暖化の影響でしょうか、過去の経験で予測できないような自然の災害が起こる昨今ですが、我々の歯科界においても、今まで気付かなかった様な症例に遭遇する機会も多くなったようです。特に歯科用金属が原因ではないかと思われる負の全身症状、皮膚粘膜疾患に代表される金属アレルギー患者の症例は、増加の一途をたどっているような気が致します。
長い間わが国では金属が主体の歯科修復物が多く施されてまいりました。金属材料が歯科治療に大変寄与してきましたことは、誰も否定できない事です。しかし一方では、レジンやセラミック修復の進歩も確実に歯科治療を変えつつあることも誰もが知る事実であります。
患者さんが、歯科治療にも審美性を求め、アレルギー懸念の少ない材料による歯科治療が自然の流れのような日寺代の中にあって、日本メタルフリー歯科学会が果たすべき役割は、大変多岐にわたるものと考えております。

今回、我が国歯科界の病理臨床検査分野では第一人者である東京歯科大学臨床検査病理学講座井上孝主任教授大会長の下で、本学会第9回の学術大会を行うことが出来るのは、大変意義深い事であると感謝しております。
私が、メタルフリー歯科臨床を学ぶきっかけをもたらしてくれたのは、他ならぬ井上孝教授の論文を拝読した時であります。詳しくは理事長講演の中でお話させて頂きますが、臨床検査分野の権威が明確に声をあげておられるのに、一般臨床家は、あまり興味を示さなかったことに驚き、私は長年の臨床経験から謙虚に反省し、新たな道を模索して今日に至っております。

我が国の歯科保険制度は、世界に誇れる内容ではありますが、時代の流れと共に、改善してほしいと考えているのは、多くの歯科臨床家の願いであると思います。この学会は、一般臨床家が多数を占める学会であるといっても過言ではないと思いますが、日常の歯科保険制度の下で治療を行う臨床家は、あまり気がつかずに日々熱心に診療に携わっております。臨床家が良かれと思って行った治療により、新たな疾患で患者を苦しめる結果になっている事を知ったら、誰しも自責の念に駆られる事と思います。そのような事が少しでも無くなって欲しいと願い、この学会の発展・向上を祈念致します。

この学術大会では、「生体材料と生体の調和を求めて」のテーマを掲げて、大会長 井上 孝教授が、各方面におけるご専門の先生方の御講演をご依頼し準備なさって下さいました。会員の皆様には、明日からの臨床のヒントに役立てて頂きたいと願っております。
我々歯科界では、歯科医師過剰、患者減少、増税 等々 決して良い状況とは言えない現状であります。そのような状況下で、この学会が、日本の歯科界に、そして国民一人一人に少しでも明るい話題を提供できればと願っております。

最後に本学会第9回学術大会長の東京歯科大学 井上孝主任教授・準備委員長 中島 啓先生はじめ教室員の皆様に、感謝申し上げます。

大会長 ごあいさつ 「第9回学術大会の開催にあたって」
第9回日本メタルフリー歯科学会学術大会 大会長
東京歯科大学臨床検査病理学講座主任教授
井上 孝

井上 孝 今回、第9回目の日本メタルフリー歯科学会学術大会を私共の講座が主管として、平成29年11月26日(日)に東京歯科大学水道橋校舎本館13階講義室にて開催することとなりました。
本大会テーマは「生体材料と生体の調和を求めて」として、金属材料を含めて人工材品無くして成り立たない歯科医療を見つめ直すためにプログラムを企画しました。
シンポジウム1として、インプラントなどの金属材料、修復材料として広く普及しているレジン材料、および究極のメタルフリー治療である再生歯を用いた治療について、良い点、問題点を討論する予定です。
シンポジウム2として、日常から金属、レジンアレルギー患者を診察されている、歯科大学口腔検査センターの先生と皮膚科の先生にお話を頂き討論する予定です。
特別講演としては、歯科同様人工材品無くしては成り立たない整形外科的立場から、順天堂大学医学部整形外科の金子和夫教授にお願いしております。
本学会を通じて、メタルフリーの視点から今後の歯科の未来について、皆様と考えてみたいと思っています。宜しくお願い致します。

第9回 一般社団法人日本メタルフリー歯科学会 学術大会講演
理事長講演

日本人の口腔内メタルフリー歯科を推進しよう
本間憲章
一般社団法人日本メタルフリー歯科学会理事長
(医)本間歯科理事長
日本歯科大学病院総合診療科臨床教授

 本間憲章

日本人の口腔内には、金属が溢れているという現実は、世界的にみてもトップクラスではないかと思っている。これは歯科医療保険制度のいわば副産物といえるかもしれない。
わが国のような歯科医療保険制度が確立している国を、私は知らない。子供の歯科保健制度はカナダなどでも存在する。しかし成人歯科の歯内療法、口腔外科処置、歯周病処置、保存修復、補綴処置まで、保険対象としている国はないのではないか。
歯科医の技術料は、加味されていないと思わざるを得ない低額一律の保険診療報酬での治療が行われている。金銀パラジウムも、この保険制度からの国策金属といえるだろう。これを患者の口腔内に装着しているわけである。それら口腔内金属の劣化によると思われる金属アレルギーの報告が、近年多くなってきたことは周知の事と思います。もし患者に金属アレルギーが発症したら、金属を除去せざるを得ないであろう。充填物や補綴物では、除去はさほど困難とはいえない。しかし歯科インプラント治療ではどうであろうか。ブローネマルクがチタンと骨とのオッセオインテグレーションという概念を発表し、チタン製インプラントが発売されるや否や、急速に普及してきた。チタンはアレルギーを起こさないとの思い込みやPRで、ほとんどの臨床歯科医は疑問に思わなかったといえるかもしれない。 我々臨床家は常に基礎医学者の研究や英知に耳を傾ける事が重要な事であるが、それが往々にして忘れがちになる。

大会長東京歯科大学臨床検査病理学講座井上孝教授が日本歯科評論に投稿下さった2008年の論文で、私はメタルフリーインプラントに注目せざるを得なかった。歯科インプラントは、「ジルコニアの登場を待つべきではなかろうか」この一言に衝撃を受けたのである。本学会設立大会に米国ニューヨーク大学審美歯科のガリリ教授が講演をなさってくれる事になり、私は、審美的な面ばかりに注目し、メタルフリー歯科とは、口腔内に見える部分のメタルフリーだけを考えていたのである。私は井上孝教授の言葉に刺激され、未来を見据えて探し求めたジルコニアインプラントを歯科インプラント治療の選択肢の一つに加える事にした。金属アレルギーのある患者、その心配をする患者には、ジルコニアインプラントを教示し、本人の理解を得られた患者に応用、大変感謝されている。今回変色した金銀パラジウム補綴物を心配し来院した患者の口腔内全て金属除去し、ジルコニアインプラント 2ピースタイプを埋入し、オールセラミッククラウンを装着、様のインプラントの経過報告もしたいと思う。

シンポジウム 1 人工物との調和を考えた歯科治療

継続開来 レジン材料の現状と将来
鈴木 司郎
アラバマ大学歯学部 客員教授
鈴木歯科医院 院長

鈴木 司郎

近年、歯科材料の進歩は目覚ましく、次々と新材料が臨床の場に送り出されている。歯科材料は金属、無機材料、有機材料に大別されるが、このうち金属材料は歯科修復において不可欠のものであったが、アレルギーの問題に加え経済面からも改善が求められている。アレルギーを引き起こす金属イオンの溶出に加え、金属材料の大きな欠点として金属色を有することがあるが、この点においては強度の大きなジルコニアの導入により転換期を迎えている感がある。この様にセラミック材料の進歩も著しくデジタルテクノロジーの応用により安定したものになりつつある。
一方、レジン材料はやや安価な材料と思われがちであるが、実はその応用範囲は非常に広く、古くはアクリルレジンが義歯床用に応用されたことから始まり、常温重合システムの開発により補修用として今も臨床では重宝されている。
しかしながら、充填用としてはアクリルレジンでは不十分であり、これを改良したものとしてコンポジットレジンが出現したことにより大きく飛躍した。現在では接着技術の進歩により、より安定した接着修復ができるようになっている。また最新のオールセラミック修復を成功させるにもレジンセメントは必須のものになっている。さらには近年、保険治療にも審美性の高いレジン冠が用いられる様になり、メタルフリー治療が保険治療のレベルアップに貢献しようとしている。

これらの材料の今日の進歩があるのも、少しでも良いものを作ろうという先人達の努力があったればこそで、それを引き継ぎ、生体との調和に適ったものを作ろうと、さらなる改良を続けて来たからに他ならない。ここではレジン材料の過去を振り返り、現状をまとめ、さらには将来の展望についても論じたいと思う。

ジルコニアインプラントの開発
飯島 俊一
東京歯科大学口腔インプラント学講座 臨床教授
アイ・ティー・デンタルクリニック 院長

飯島 俊一 私は、2006年よりチタンインプラントを開発してきた。2014年に厚生省の認可を取得し、2.8mmのエクスターナルテーパーロックタイプのインプラントを発売した。2016年には、同様タイプの2.2mmのインプラントの認可を取得した。これらのインプラントは、いわゆる直径減少インプラント(RDI)であるが、通常のインプラント以上の強度を有する。現在流通する、多くのインプラントでは、埋入でできない、骨の薄い部位への埋入を想定し、開発した。さらに現在は、患者の骨の垂直的減少に対応した、二段階インプラントの認可に向け、取り組んでいる。これらの新しく開発したインプラントは、骨の細い人や、骨の経年的に減少する30%近く応用を考えている。70%の患者は、骨の変化が少なく、通常のインプラントの適応が可能であるが、骨減少のない患者であっても、インプラント周囲炎により、骨の減少を惹起し、そのリカバリーが必要となる。そこで70%の患者には、ジルコニアインプラントの適応が必要となる可能性があると考えている。現在チタンアレルギーの患者や、金属インプラントを嫌う、患者にたいして、海外で使用されているジルコニアインプラントを応用し、チタンインプラントで開発した可撤方式を改変応用し、良い結果を得ている。今回は、チタンインプラントの開発経験、それに基づく海外製ジルコニアインプラントの改変使用法、これからのエクスターナルタイブのジルコニアインプラントの開発の可能性について述べてみたい。

顎口腔領域と連携機能する生物学的な歯の再生治療の技術開発
大島 正充
徳島大学大学院歯薬学研究部
顎機能咬合再建学分野 准教授

 大島 正充 超高齢社会を迎えた現代において、口腔機能の維持・向上は、国民の健康長寿に大きく貢献することが示唆されている。歯ならびに歯周組織は、岨噂機能ばかりでなく、周囲の岨噂筋や顎関節と互いに連携して生理的な顎機能運動を担っており、いずれの組織が障害されても機能的校合系に悪影響を及ぼす。そのため多種多様な疾患が生じやすく、歯の喪失に対する歯科治療として、これまで冠橋義歯や床義歯、口腔インプラントなどの金属材料を主とした人工的な機能代替治療が行われてきた。しかしながら、これらの人工材料による代替治療は、唆合機能の回復において有用であるものの、歯の移動を可能とする歯根膜機能や、侵害刺激を中枢に伝達する神経機能といった、顎口腔領域と連携しうる歯の生理機能を回復できないことが課題とされており、天然歯が有する解剖学的構造や生理的機能を本質的に回復する歯科再生治療が望まれている。

近年の基礎医学研究の進展はめざましく、次世代を担う高度な医療システムとしての再生医療技術の研究開発が進められている。歯科領域においても、組織由来幹細胞の移植治療やサイトカインによる賦活化療法、細胞シート工学を利用した再生組織移植などが取り組まれており、歯や歯周組織などの口腔組織の疾患・損傷に対する効果的な再生療法として臨床応用が進められている。その一方で、再生医療に求められる最大の目標は、疾患や外傷、加齢に伴う障害によって機能不全に陥った器官に対して、構造的・機能的に完全な再生器官で置き換える「器官再生医療」であり、歯科領域においても患者の治療ニーズに応える新たな治療技術として、近い将来に確立されることが期待されている。

私たちはこれまでに、マウスモデルにおいて、三次元的な細胞操作により歯胚を再生する技術を確立し、この再生歯胚(再生歯)の移植により、正常な歯の組織構造と咀嚼機能、さらには顎口腔領域と連携機能する生物学的な歯の再生治療の概念を実証してきた。最近では、大型動物であるイヌモデルにおいて、構造的・機能的に完全な歯の再生技術を実証し、将来の歯科臨床に利用可能な再生治療の確立に向けて、確実かつ大きな進歩を遂げた。本講演では、私たちの研究成果を中心に、可能とする歯科再生医療の実現に向けた技術開発の進展について考察したい。

ディスカッション

ランチョンセミナー

進化する CAD/CAM 冠 – セラスマート 300
上野 貴之
株式会社ジーシー

ランチオンセミナー風景 平成26年度の診療報酬改定において小臼歯に対してCAD/CAM冠が保険収載され,メタルフリーの実現に向けて新たな一歩が踏み出された。弊社では,CAD/CAM冠が保険適用になった平成26年4月より,CAD/CAM冠用レジンブロックである「セラスマート」を販売している。セラスマートは,弊社の充填用コンポジットレジンで培ったナノフィラーテクノロジーを応用し,高強度で粘り強い特性を併せもつ材料であり,市場で高い評価を受けている。
現在では,各社よりCAD/CAM冠用のレジンブロックが多数市場に投入され,その特徴は様々である。弊社では今年4月にセラスマート後継品である「セラスマート270」を発売した。セラスマート270は,フィラーの表面処理をさらに最適化し,セラスマートよりもフィラーを高充填させることでより高い物性を実現した。
CAD/CAM冠用レジンブロックはこれまで,「シリカ微粉末とそれを除いた無機質フィラーの2種類のフィラーの合計が60%以上であり,重合開始剤として過酸化物を用いた加熱重合により作製されたレジンブロックであること」以外には物性に関する要求事項がなかった。CAD/CAM冠の症例数が伸びていくなかで,材料の性能基準を示すものとして,日本歯科材料工業協同組合より団体規格「JDMAS 245:2017 CAD/CAM 冠用歯科切削加工用レジン材料」が平成29年3月に制定された。本団体規格ではCAD/CAM冠用レジンブロックの種類をタイプ1(小臼歯)とタイプ2(小臼歯及び大臼歯)とし,それぞれの使用用途によって物理的及び化学的性質の要求事項が異なっている。
このような背景から,弊社では本団体規格のタイプ2のより厳しい要求事項を全てクリアした「セラスマート 300」を今年7月に発売した。セラスマート 300は,セラスマート及びセラスマート 270で採用されたナノフィラーテクノロジーを更に改良し,物性を大幅に上昇させた革新的なレジンブロックである。37℃水中浸漬7日間後の3点曲げ強さ(JDMAS 245:2017 に準拠)は,セラスマート 300:267MPa,セラスマート 270:202MPa,セラスマート:172MPa となっており,セラスマート 300 はこれまでのレジンブロックよりも高い物性を有している。セラスマート 300 は,セラスマート及びセラスマート 270 の利点を引き継ぎながら更に劣化しにくく,臨床において有用な材料である。
本セミナーでは,弊社で発売しているCAD/CAM冠用レジンブロックの歩みや物性などについて紹介したい。

特別講演

人口股関節全置換術 – 歴史と最近のトピックス –
金子 和夫
順天堂大学医学部整形外科学講座 主任・教授

金子 和夫 人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:以下THA)とは、変形性関節症や骨頭壊死、リウマチといった症例に対して、寛骨臼側・大腿骨側それぞれにインプラントを設置し、関節を形成する手術である。インプラントはチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス合金が主な材料となっており、荷重に耐えられる強度と生体親和性が求められる。
現在は過去の様々な成績より、金属同士が直接触れないよう、摺動面にはポリエチレンやセラミックといった材料も使用されている。インプラントと骨との固定方法は大きく分けて2種類になる。骨セメントを使用して固定する方法(セメントTHA)と、金属に凹凸加工やビーズポーラス加工が施され、その上にアパタイトやβ-TCPを焼結されたインプラントを骨へ直接固定する方法(セメントレスTHA)に分けられる。
近年大きく改良が施され、長期成績が期待できる材料としては、摺動面で使用されるポリエチレンではないかと考える。過去の歴史では、樹脂や金属など様々な摺動面が実用されてきたが、ゆるみや脱臼、神経性の痛みといった合併症も多く課題として残してきた。現在もっとも多く使用されている摺動面はポリエチレンになるが、適量のガンマ線を照射する方法や酸化耐性を上げるビタミンEを含有する方法、細胞膜と同じ分子構造をもつ材料を摺動面にグラフト重合させる加工を施すことで、長期成績に必要な強度と耐摩耗性を改善してきている。
自身は1985年より3年間フランス留学を経験し、そのオリジナリティ溢れるセメントレスTHAを中心に学んできた。フランス整形外科の歴史は他国の歴史とは大きく異なり、斬新な発想から様々な製品を生み出し、現在にも改良を重ねながらグローバルスタンダードとなっている手技や器械も多く存在している。その中でも最近特に注目を集めている耐脱臼性にも優れた、フランス発祥のデュアルモビリティTHAについても触れておきたい。

今回は人工股関節全置換術における、材質や歴史を中心とした最近のトピックスを紹介する。

学術大会会場内

シンポジウム 2 金属との調和は可能か

歯科治療材料に対するアレルギーの現状と歯科医療のこれから
北川 雅恵
広島大学病院口腔検査センター 診療講師

北川 雅恵 アレルギー性疾患を発症する患者が、生活環境の多様化に伴うアレルゲンへの曝露の増加や体質の変化など様々な理由で増加している。食物、花粉やノ、ウスダストなどに加えて歯科治療で頻用されている金属やレジンに対するアレルギーも増えており、歯科治療材料に対して生じるアレルギーの症状への対応や予防が歯科でも重要となっている。
口腔扁平苔癖や掌疏膿病症などは、歯科用金属アレルギーの関連する疾患として挙げられ、口腔内金属の除去によって改善がみられた例はこれまでにも多数報告されている。パッチテストによる結果ではニッケルやパラジウム、亜鉛などで陽性率が高く、金銀パラジウム合金によるアレルギーが増加している。
平成26年の診療報酬改定によって小臼歯部へのCAD/CAM冠が、平成28年の改定では医科連携による金属アレルギーの診断に限り、大臼歯部へのCAD/CAM冠、硬質レジンジャケット冠が保険適応となり、金属アレルギーを有する患者への治療の選択肢が広げられた。

金属アレルギーで注目されているもう一つの問題は、チタンアレルギーである。歯科では、チタン製インプラントによるアレルギーが原因と考えられる症例も少しずつ報告されている。チタンアレルギーの検査も他の金属と同様にパッチテストを行っているが、日本ではチタン検査試薬は医薬品として承認されているものはないため、各施設で独自に調整した溶液を用いているのが現状である。
インプラントの普及に伴い、チタンアレルギー患者を的確に識別することがこれまで以上に求められることから、適正試薬を早急に決定して供給する必要があるとともに、それを用いた多施設でのチタンアレルギーの臨床研究を行う必要がある。

一方、金属の代替としてレジンやジルコニアなどのメタルフリー材料が挙がるが、これらの使用時でもアレルギーを起こす可能性がある。特に、レジンは口腔内で重合操作を行うことが多く、アレルギーの原因となるモノマー成分が粘膜に接触することでアレルギーを惹起する危険性を歯科医療者は再認識しなければならない。

歯科治療材料に含まれる成分によるアレルギーが疑われる場合は、検査を行い、検査結果を基に治療方針を決定してくことが大切である。さらに、これからの歯科医療においては、まずリスク評価を行い、それぞれの患者に適した治療を選択することが、より安心・安全な歯科医療を提供するために必要である。

歯科材料(特に歯科金属)に対するアレルギーによる皮膚粘膜病変の診断と治療
高橋 慎一
東京歯科大学市川総合病院 皮膚科 教授

高橋 慎一 歯科用金属やレジン系材料はアレルギーにより皮膚粘膜に障害を引き起こす。 特に近年、ピアスによ るニッケル感作からパラジウムアレルギー、ジェルネイル感作からレジンアレルギーが誘発されるとの 問題が提起されており、注視すべきである。

歯科用金属による皮膚粘膜障害は歯科金属疹とも言われ、大きく1)口唇・口腔粘膜病変、2)口囲皮 膚病変、3)口腔・口囲外の皮膚病変に分類される。
1)としては接触口内炎、接触口唇炎、粘膜苔癖(口 腔内限局の扁平苔癖)、2)は口囲皮膚炎、3)には異汗性湿疹、掌蹠膿疱症、届平苔癬、貨幣状湿疹、 全身の皮膚炎などがあげられる。発症機序は、異種金属の存在下や金属腐食により金属イオンが発生し、 Ⅳ型アレルギーが成立し、直接粘膜に病変を生じる場合、1)が発症する。
一方、2)、3)の場合は 口腔粘膜や腸管から吸収される微量金属により全身型の金属アレルギーにより発症すると考えられてい る。
一方、レジンによる皮膚粘膜障害は直接の接触による接触口内炎や接触口唇炎として発症する。発症機序はレジンの構成成分のモノマー、HEMA(hydroxyethyl mathacrylate)やMMA (methyl methacrylate)などに感作され発症する。従って重合するとアレルギー症状を引き起こさない。
これらのⅠⅤ型アレルギーの診断はパッチテストがゴールドスタンダードである。しかし、パッチテストは現症状の悪化の可能性、夏季に施行できない、感作の危険性、頻回の受診、判定に熟練を要する などの欠点がある。
歯科用金属では市販のパッチテスト試薬があり、施行は容易である。
しかし、レジンの場合、MMAはパッチテスト試薬が販売されているが、HEMAは国内で市販されておらず、施行で きる施設は限られている。
歯科用材料をそのままパッチテストに用いる(asis)ことは偽陽性の可能性、 感作の危険性から避けるべきである。

歯科用金属のアレルギーの場合、口腔内金属分析後、含有金属の除去、他の金属やセラミックへの置換が検討される。ただし、パッチテスト陽性金属が口腔内に使用されていても、皮膚粘膜症状の原因とは限らないので注意が必要である。
歯科治療中の発症、パッチテスト強陽性、パッチテスト施行中に症 状の悪化などは原因の可能性を示唆する。レジンの場合、充填や修復治療は、完全に重合するまで口腔粘膜や歯周組織に接触させず、揮発性なので必ずバキュームをして臭気を飛ばす。残留モノマーが粘膜 に触れ続ける義歯の場合、ポリカーボネートなど別の樹脂を用いる。

一般演題 (ポスター発表)

ポスター発表会場

口腔扁平苔癬様病変における制御性T細胞の存在に関する研究
山田玲菜1)、山本 圭1)、明石良彦2)、鷲見正美2)、中島 啓2)3)、國分克寿2)3)、
村上 聡2)3)、松坂賢一2)3)、井上 孝2)3)
1)東京歯科大学 学生 2)東京歯科大学 臨床検査病理学講座
3)東京歯科大学 口腔科学研究センター

【背景】
口腔扁平苔癬は、慢性難治性の炎症性疾患であり、その発症には金属アレルギーやC型肝炎との関連が指摘されている。典型的なものでは、びらんを伴う白色レース状の病変を呈し、組織学的には上皮下に著名なリンパ球の帯状浸潤、釘脚の鋸歯状化が認められる。またリンパ球の中には、アレルギーなどの免疫応答を抑える機能を有する制御性T細胞(Reguratory T cell; Treg)が存在する。これまで、口腔扁平苔癬の組織においてTreg の細胞数が正常な組織よりも増加していることが報告されているものの、浸潤しているT細胞に対するTreg の組織学的な解析は少ない。
【目的】
本実験では口腔扁平苔癬におけるTreg の分布や、症例による数の違いを明らかとするために、扁平苔癬の患者の組織を用いて免疫組織学的に検索を行った。
【方法】
31歳~64歳の男女5人の患者の頬粘膜部または舌緑部から採取された口腔扁平苔癬の組織を用いてパラフィン切片を作製した。作製した切片において、T細胞のマーカーであるCD3 とTreg のマーカーである FOXP3 の免疫組織化学染色を行った。染色標本からT細胞に対する Treg の割合を算出した。
【結果】
CD3 および FOXP3 の免疫二重染色を行ったところ、CD3 陽性T細胞が5例全ての上皮下に浸潤している像が認められた。CD3 陽性T細胞の中に散在して FOXP3 にも陽性を示す細胞がみられ、特定の部位に集族している様子は認められなかった。高倍率にて観察される一定範囲内における各患者の CD3 陽性T細胞の平均値は、280~624個であった。また、FOXP3 陽性 Treg の平均値は28~118個であった。CD3 陽性T細胞に対する FOXP3 陽性 Treg の割合は、10.0 ~ 18.9%であり、5例の平均値は13.8%であった。
【考察】
Treg はT細胞の数と比例しなかったことから、T細胞の浸潤量と Treg の浸潤量は関係しないことが考えられた。患者の組織において Treg の割合に差が見られたことから、臨床的な所見や重症度にTreg が何らかの影響を与えている可能性があることが考えられる。

口腔扁平苔癬におけるDNAメチル化解析
中條貴俊、安彦善裕
北海道医療大学 生態機能・病態学系臨床口腔病理学分野

【目的】
口腔扁平苔癬は、口腔粘膜の角化異常を示す慢性炎症性疾患である。基本的に原因は不明といわれているが、歯科用金属や薬剤によるアレルギー、ウイルス感染といった環境因子の関与が示唆されている。
この環境因子が引き起こす遺伝子変化の代表的なものにエビジェネティックな修飾があるが、その代表的なメカニズムにDNAのメチル化がある。口腔領域でも悪性腫瘍におけるDNA高メチル化の報告は多いものの、炎症性疾患におけるDNAメチル化を示した報告は僅かである。
本研究では、口腔扁平苔癬のE-Cadherin、beta-Catenin、p16ink4a、MGMT のプロモーター領域における DNA のメチル化について検索し、メチル化の程度を、比較検討した。
【方法】
生検および手術材料のホルマリン固定されたパラフィンブロック包埋標本を用いて、組織上で炎症反応を含んだ歯根嚢胞 30検体、口腔扁平苔癬 25検体、届平上皮癌 25検体,また陰性コントロールの非炎症組織として非炎症性歯肉増殖症 25検体を使用した。
埋入されたパラフィン切片を切り出し、QIAamp DNA FFPE Tissue Kit(QIAGEN)を用いてDNAを抽出し、Bisulfite 処理を行った。
Bisulfite 処理後のDNAと設計したPrimerを加えてメチル化特異的 RT-PCR法を行った。それらの結果からメチル化DNAの比率を算出し、差異を比較した。結果には Kruskai-Wallis 検定を用いた。
【結果】
口腔扁平苔癬において、非炎症性組織や歯根嚢胞と比較し、E-Cadherin、beta-Cateninおよび
MGMTの高メチル化が確認された。
【考察】
以上の結果から、E-Cadherin、B-Catenin、MGMTの高メチル化が口腔扁平苔癬の発症に関与していることが示唆された。また、これらの遺伝子の高メチル化が口腔扁平苔癬における予後診断への応用や、治療のターゲットとなる可能性が示唆された。

ジルコニア結合ペプチドの同定とその応用
- 抗菌性ジルコニア開発を目指して -
橋本和彦1)、松坂賢一2)、吉成正雄3)、井上 孝2)
1)東京歯科大学市川総合病院 臨床検査科 2)東京歯科大学 臨床検査病理学講座
3)東京歯科大学 口腔科学研究センター

【背景】
近年,チタンに替わるインプラントとして,より生体適合性の高いジルコニアインプラントが注目されている。しかしながらジルコニアはチタンよりも骨との結合性に劣る。ゆえにジルコニアインプラントが生着するためには,生着阻害の原因の一つである細菌感染を予防することが重要となる。
【目的】
ジルコニアに結合するペプチドモチーフの同定と,それを用いた新規人工タンパク質の抗菌活性を評価し,抗菌性ジルコニア開発への可能性を探る。
【方法】
直径125μmのイットリア安定化ジルコニアビーズ(TZ-B)を標的としてファージライブラリ(Ph.D.-12 system)を使用したファージディスプレイ法を行い,ジルコニア結合ペプチドモチーフを提示したバクテリオファージを選択した。このバクテリオファージのジルコニアへの結合能は,直径13mmのイットリア安定化ジルコニアディスク(TZP)や水晶発振子微量天秤(QCM)を用いて評価した。続いて既知の抗菌ペプチドである Histatin5 と,同定したジルコニア結合ペプチドのモチーフを併せ持つ新規人工タンパク質を合成した。この人エタンパク質でコーティングしたTZPディスク上でP.gingivalis ATCC 33277 を37℃下で2日間嫌気培養後,生菌数をカウントし,人工タンパク質の抗菌活性を評価した。
【結果および考察】
ファージディスプレイ法により,58-mer のペプチドモチーフを提示したバクテリオファージが選択された。このファージクローンはペプチド非提示ファージクローン(陰性コントロール)よりもTZディスクに対する結合能が約300倍高いことがわかった。またQCMアツセイでは、ジルコニア結合ペプチド提示ファージ溶液を加えると、イットリア非含有ジルコニアセンサー表面の粘弾性の急激な上昇が観察された。以上より、ジルコニア結合ペプチドモチーフを同定することに成功した。
このモチーフとHistatin5モチーフを融合した新規人工タンパク質を用いた抗菌活性アッセイでは,P.gingivali の生菌数が表面コーティングのないTZPディスク(陰性コントロール)の約1/10に減少しており,規人工タンパク質は P.gingivalis に対する抗菌活性をある程度有することが明らかとなった。今回の研究により,抗菌活性を有するジルコニアの開発に関する可能性が示唆された。

Optical property and flexural strength of translucent zirconia layered with high-translucent Zirconia
林原貴徳1)2)、佐藤 亨1)、久永竜一1)、野本俊太郎1)、四ッ谷護1)、腰原輝純1)、原 舞1)、
村井友理1)、武本真治3)、吉成正雄2)
1)東京歯科大学 クラウンブリッジ補綴学講座 2)東京歯科大学 口腔科学研究センター
3)岩手医科大学 医療工学講座

The objective of the investigation
Tetragonal zirconia polycrystals(TZPs)have been widely used in region of aesthetic dentistry. These TZPs are often layered with porcelain when used clinically because they are poor translucency. however′ fracture and chipplng of the veneering porcelain have also been reported. Recently, translucent and high-tranSlucent TZP that enable color expression are commercially available, and there are high expectations for their clinical application. Howeve, ′there has been no information regarding color and translucency of translucent TZP layered with high-translucent TZP. The purpose of this study was to investigate the effectiveness of translucent TZP layered with high-translucent TZP that have different thickness ratio adhered by resin luting cements with different shade.

Materials and methods
Translucent TZP and high-translucent TZP(Tosoh, Tokyo, Japan), and resin luting cements(Kuraray Noritake Dental, Tokyo, Japan)were used in this study. Layered specimens of 13mm diameter and 1.0mm thickness with different thickness ratio were prepared, and adhered by resin luting cements.
Monolithic specimens of each TZP with 1.0mm thickness were also prepared as a control. Color evaluation was performed with the CIE L*a*b* color system agalnst the black and white backgrounds, and translucency parameter(TP)values was calculated.

Results
In evaluation of color characteristics, the L*values of all layered specimens showed intermediate Values between monolithic translucent and high-translucent TZP. The a* values and the b* values were changed depending on shades of cements, and showed significantly higher values than monolithic specimens. There was no slgnificant difference in the TP values among different thickness ratio.

Conclusion
These results suggested that layerlng method of translucent TZP layered with high-translucent TZP adhered by different shade cements is clinically useful for esthetic dental treatment.

レジンを用いた長期暫間補綴物について
鈴木司郎
アラバマ大学 客員教授
鈴木歯科医院

【暫間補綴物】
暫間補綴物は、最終補綴物が装着されるまでの間に、治療部位の保護や唆合高経の確保、さらには審美性の回復などを暫間的に行うために用いられる修復物である。一般的には、その装着期間は数週間から数か月であるが、長期に渡ると修復物自体が損耗、被折、さらには脱落するといった不備を生じることが多くなる。しかしながら、状況によってはやや長期に渡り暫間処置が必要となる場合もある。
【長期暫間補綴物】
ここでは必要に応じて筆者が行っている方法を紹介し、その製作法、および注意点について論じたい。
【適応症例】
1~2歯の中間欠損で欠損部を早期に補綴したいが、臨在歯が健全歯であり、フルクラウンの形成が躊措された場合、また若年者で最終補綴物を装着するには時期尚早と判断された場合、その他補綴処置は希望するものの歯牙切削に恐怖感を持っている場合など。
【製作法】
支台歯形成:隣接面、頬側面(唇側面)、舌側面(口蓋面)のエナメル質内部で平行面を形成し、必要に応じて頃合面辺緑隆線部にレスト座形成をする。印象し模型上で形成面をファイバーレジン(ジャケットオペーク:サンメディカル社製)で一層被覆し、重合後、硬質レジンを築成しウイ歯を完成させる。
【注意点】
装着に際してはエナメル質への確実な接着が不可欠である。接着面が破壊すると補綴物が破損、脱落する恐れがあることを理解しないといけない。また補綴物が若干オーバーカントウア一になる場合もあり、長期に渡るとカリエス発生の危険性もあるので、定期診査を行い、口腔内清掃を徹底しないといけないことは言うまでもない。

補綴治療前に行ったパッチテストの結果とその検討
腰原輝純、佐藤 亨、野本俊太郎、四ッ谷護、神田雄平、林原土徳、久永竜一、新谷明昌
東京歯科大学 クラウンブリッジ補綴学講座

【背景】
アレルギー疾患は、外部からの抗原(アレルゲン)に対し、過剰な免疫反応が起こる疾患であり、歯科では歯科用金属が原因となる金属アレルギーが問題となっている。また、1990年頃、全国的にパッチテストによる金属アレルギー感作陽性率の調査が行われたが、近年ではインプラントや補綴物の使用金属の変化により、各種金属陽性率も変化しているという報告があり、対応が求められている。金属アレルギーの関与している疾患としては口腔内では口内炎、口角炎、舌炎、口腔扁平苔癬などがある。全身的なものとしては全身性接触皮膚炎、掌蹠膿疱症、扁平苔癬などがあり、歯科用金属が原因となったアレルゲンが血流によって散布され、遠隔の皮膚でアレルギー反応を呈することがわかっている。
【目的】
本研究では東京歯科大学千葉病院補綴科に来院した補綴処置前にパッチテストを行った患者72名の感作陽性率、陽性金属元素の種類を調査し、装飾品にかぶれたことのある患者、掌蹠膿疱症、他のアレルギー疾患の既往のない患者に分けて比較し検討した。
【方法】
2002年4月から2012年6月までの10年間に、東京歯科大学補綴科で補綴治療前に東京歯科大学臨
床検査部へ金属アレルギー検査依頼しパッチテストを行った72名を対象とし、陽性率、陽性金属の種類と割合を検討した。また、装飾品にかぶれたことのある患者29名、掌蹠膿疱症患者15名、他のアレルギー疾患の既往のない患者28名について、感作陽性率と陽性金属元素の種類と割合を検討した。
【結果】
陽性率は48.6%でニッケル、パラジウム、白金の順で高かった。装飾品にかぶれたことのある患者、掌舵膿病症患者ではニッケル、アレルギー疾患の既往のない患者ではパラジウムが高い陽性率を示した。
【結論】
アレルギー疾患の既往や症状のない患者の半数以上が何らかの金属に陽性反応を示した。また、パラジウムやチタンに対するアレルギーが増加する傾向にあり注意が必要である。

歯科用常温重合レジンによるアレルギーが疑われた患者に対して検査結果に基づく治療を行った1例
北川雅恵1)、呉本晃一2)、新谷智幸1)、小川郁子1)、柴 秀樹3)、栗原英見1)4)
1)広島大学病院 口腔検査センター 2)広島大学大学院医歯薬保健学研究科 先端歯科補綴学
3)広島大学大学院医歯薬保健学研究科 歯髄生物学
4)広島大学大学院医歯薬保健学研究科 歯周病態学

【目的】
歯科用常温重合レジンによるアレルギーが疑われた患者に対してアレルギー検査を行うことで原因材料を特定し、アレルギー反応を示さなかった材料で治療することによって症状の再燃を防止できた症例を報告する。
【症例】
50歳代、女性。数年前に掌蹠膿疱症を発症し、数ヶ月前に近皮膚科にてパッチテストを実施した。亜鉛と白金に陽性反応を示したため、口腔内金属の除去を希望し、当院口腔インプラント診療科を受診した。口腔内金属元素分析で23-27部ブリッジ(金銀パラジウム合金)に亜鉛が含まれていることが判明したため、当該ブリッジを除去し、暫間補綴物(TEC)をA社の常温重合レジンで作製し、装着した。患者から帰宅後、口唇浮腫および水痘が生じたとの訴えがあり、常温重合レジンによるアレルギーを疑い、A社製品を含め複数の常温重合レジン製品についてパッチテストを行った。検査用シート(パッチテスター⑧、鳥居薬品)のパッド上に希釈した常温重合レジン液を数滴滴下して染み込ませたものと常温重合レジンを練和後パッド上ですばやく薄く平坦にして重合・硬化させたものを検査試薬として上腕へ貼付した。パッチテストの判定は、International Contact Dermatitis Research Group(ICDRG)の基準に従った。その結果、A社の常温重合レジン1%希釈液および重合のいずれにおいても72時間後から貼付部位に一致して、紅斑、浸潤、丘疹が認められ、8日後までその反応は増強したため、陽性と判定した。パッチテストの結果が陰性であった他社の常温重合レジンでTECを作製し、装着したところアレルギー症状はみられなかった。その後合着用セメントについても追加検査して、陰性と確認できた合着用セメントを用いてジルコニアクラウンで製作したブリッジを装着した。ブリッジを装着してから4ケ月が経過しているが、アレルギー症状の再燃はみられない。
【結論】
歯科用材料によるアレルギーが疑われる場合、パッチテストを行うことによってアレルゲンおよび非アレルギー材料の特定が可能となり、患者に安心安全な歯科治療を提供できることが示唆された。

東京歯科大学千葉病院臨床検査部における歯科金属アレルギー外来の統計 -過去5年間(2012年~2016年)の動向について -
村上 聡1)、明石良彦1)、橋本和彦2)、鷲見正美1)、根本 淳1)、AkramAl-Wahabil)、
中島 啓1)、國分克寿1)、松坂賢一1)、井上 孝1)
1)東京歯科大学 臨床検査病理学講座 2)東京歯科大学市川総合病院 臨床検査科

【背景】
東京歯科大学千葉病院では、2000年12月から歯科金属アレルギー外来を開設し、パッチテストを
実施している。
【目的】
今回は直近5年間(2012~2016年)の東京歯科大学千葉病院歯科金属アレルギー外来受診患者の特徴とパッチテストの成績の把握と検討を目的とした。
【方法】
2012年1月から 2016年12月までに東京歯科大学千葉病院の歯科金属アレルギー外来を受診した
394名を対象に1)年齢および性別、2)受診動機、3)感作陽性率、4)各種金属の陽性率の集計を行なった。
【結果】
1)受診患者は男性が59名、女性が335名で、年齢は60歳代の患者が最も多かった。年齢の平均は、
52.1歳(男性50.8歳、女性52.3歳)で、最年少は8歳、最高齢は90歳でいずれも女性であった。2)受診動機は金属アレルギー疑いが最も多く、次に掌蹠膿疱症、扁平苔癬であった。3)感作陽性率は全体で45.7%であり、男性に比べ女性が高かった。4)金属元素ごとの陽性率は、Ni(11.5%)>Zn(5.9%)>Pd(5.0%)>Hg(3.2%)>Co(3.0%)>Pt(1.8%)であった。
【考察】
歯科金属アレルギー開設(2000年)以来12年間の統計と比較すると、その陽性率は、全体の感作
陽性率とともに減少傾向を呈した。しかし、陽性を示した金属元素の種類と順位および受診動機には大きな変化は見られなかった。また、Tiに陽性を示す患者も少なからず認められ、今後も歯科治療前の歯科金属アレルギー検査の重要性が考えられる。

マラッセの上皮遺残細胞はiPS細胞を骨形成性細胞へ分化誘導する
有害雪乃
岡山大学医学部 学生(現 研修医)
東京歯科大学臨床検査病理学講座でのインターンシップ研究

【背景】
歯は口腔内にある咀嚼するための器官であり、歯根膜を介して顎骨内に懸垂されている。
歯の発生は胎生6週頃から始まり、まずエナメル器・歯乳頭・歯小嚢を形成する。歯根形成後に上皮鞘は分断され歯根膜中に残存する。これがマラッセの上皮遺残(ERM)である。上皮組織に属しながら被覆上皮・腺上皮のいずれにも分類されず、生涯歯根膜中で一定の容積を保って存在する特殊な上皮である。
ERMは通常は休止状態にあり、刺激環境下では骨形成および骨吸収を制御することによって歯根膜の幅を一定に保つと考えられている。その詳しい機構については明らかになっていないが、周囲の間葉系幹細胞の骨分化を誘導する可能性があることが考えられている。
【目的】
ERMの機能の中でも特に骨に対する影響を明らかにするために、ERMの増殖能の有無と生死がiPS細胞の骨分化に与える影響を形態学的および分子生物学的に検索した。
【方法】
ブタ由来ERMとマウス由来iPS細胞(3因子KOS)を用いて共培養を実施した。まずERMに対してマイトマイシンC(MMC)処理を行う不活化群とホルマリン(FA)処理による固定(Ⅹiao-ShanYetal. 2012)を行う凝固壊死群、何も処理を加えない群の3群を準備、播種した。翌日定着したERMの上に直接iPS細胞を播種し、培養を行った。培地はDMEM(High GIc)に10%FBSを添加した通常培地を用い、2日ごとに培地交換を行った。iPS細胞の誘導について、骨分化マーカーをRT-PCR法にて検索を行った。
【結果および考察】
iPS細胞のコロニーの大きさを比較すると、MMC処理群およびFA処理群は未処理群に比べて大きく、細胞が扁平に広がっていた。Runx-2の発現はMMC処理群および未処理群で経時的に増加し、BSPの発現は各群で経時的に増加する傾向が見られた。また、OCNの発現はMMC処理群で経時的に増加した。いずれの骨系分化マーカーも MMC処理群の10日目での発現が最も高い傾向が認められた。今回MMC処理群・未処理群だけではなく、FA処理群においても骨系分化マーカーの上昇が見られたことから、足場としてのERMの形態により分化誘導が行われた可能性が考えられた。ERMは足場としての形状や液性因子を介してiPS細胞の骨分化の促進に影響し、特に増殖能のないERMの骨分化誘導能が高いことが示唆された。またERMは周囲の幹細胞の骨分化を促進することで歯根膜の恒常性の維持に関与することが示唆された。

メカニカルストレスがmiPS細胞の骨分化誘導に与える影響
山崎冴羅
岡山大学医学部 学生(現 研修医)
東京歯科大学臨床検査病理学講座でのインターンシップ研究

【背景】
メカニカルストレスによってメカノレセプターが刺激され、細胞活動に影響を与えることが知られている。間葉系幹細胞では、メカニカルストレスによって骨芽細胞への分化が促進することが知られており、iPS細胞もメカニカルストレスにより分化を促進する可能性が考えられている。
【目的】
マウスiPS細胞(miPS細胞)を骨分化誘導培地で培養し、メカニカルストレス(遠心力)を加えると骨分化誘導が促進される可能性を考え、遠心力がmiPS細胞の骨分化誘導に与える影響を検索することを目的とした。
【方法】
細胞は、マウス線維芽細胞由来のiPS細胞とコントロールとして線維芽細胞株であるL929を用いた。骨誘導培地は、15%FBSを加えた D-MEM に10 ̄8 M dexamethasone、10mMβ-glycerophosphate、50μg/mlascorbate 2-phosphateを添加し使用した。メカニカルストレスの付与として、600rpmまたは4.800rpmにて20分間の遠心力を1日1度の頻度で加えた。7日後、14日後において、骨分化マーカーであるRunx2およびOCNの発現をRT-PCR法にて検索した。
【結果および考察】
位相差顕微鏡により観察では、遠心力の付与により細胞の伸長がみられ、細胞形態に違いが認められた。細胞数では、遠心力の付与による有意な差は認められなかった。Runx2の発現は、7日後、14日後とも彬かな差は認められなかった。OCNの発現は、遠心力を加えた miPS 細胞において高い傾向が認められた。
遠心力の付与によりiPS細胞が通常の丸みを帯びた形ではなくなっており、異なる細胞に分化した可能性が考えられた。遠心力付与によりRunx2は明らかな上昇がみられず、OCNの発現が上昇したことから、Runx2が発現する期間は終えていることが考えられた。また、遠心を行った群でにてOCNの発現が高いことから、メカニカルストレスによって骨分化誘導が起こった可能性が考えられる。将来的な骨の再生を目的としたiPS細胞の移植治療においては、移植後に運動などによるメカニカルストレスをかけることが有用になることが考えられた。

盛況なポスター発表会場

展示ブース

企業による多数の展示ブースが設営され、最新の歯科医療器具や情報の展示がありました。

協賛団体・企業様

  • 相田化学工業 株式会社
  • 株式会社 ジーシー
  • 株式会社プラトンジャパン
  • Z-Systems AG (スイス Z- System 社)
  • シロナデンタルシステムズ ㈱
  • 東京メディカルスクール株式会社
  • 長田電気工業株式会社
  • 株式会社 松風
  • 和田精密歯研株式会社

懇親会

懇親会会場