2012年11月18日
東京
日本大学歯学部 1号館
4階大講堂において、活況のうちに行われました。
第4回 日本メタルフリー歯科臨床学会 学術大会に寄せて
理事長 本間憲章
東日本大震災・福島における原発災害で,いまだ避難生活を余儀なくされている方々へ、まずお見舞い申し上げます。
これらの大災害で、これまでの日本人の価値観と国の進歩のあり方を、今一度、再考すべき時期に来ているという事を、多くの人々が感じているのではないでしょうか。使用済み核燃料をどう処分するのかという基本的問題すら、未だ放置され解決されておりません。一度享受してしまった恩恵を変える事の困難さを見るにつけ、勇気と英断をもって克服するべき時代であると感じます。
さて、歯科界にあっても、世界に誇れる日本の歯科医療保健制度のおかげで、国民そして歯科医も、長い間その恩恵に授かってきました。しかし、時代の流れと共に、より自然な口腔内の再現ともいうべき審美歯科への関心の高まりや、金属アレルギーを懸念する患者の増加、更には雁患した患者症例が皮膚科領域でも報告、議論される時代になり、口腔内をメタルフリーにという考え方は、歯科医のみならず国民誰しもが感じている事ではないでしょうか。より生体に親和性があり、審美感を備えた材料を使用した歯科医療の展開は、それを施す歯科医がまず研究・議論・実施の方向へ活動すべき時であると確信しております。
そのような時代背景の下で、日本メタルフリー歯科臨床学会は、発足4年目を迎え、益々その存在意義が重要になってきているものと思われます。
今年の第4回学術大会は、日本大学歯学部の歯科保存学 宮崎真至教授に大会長をお願いして、今日を迎える事が出来ました。皆様ご存知のように宮崎教授は、コンポジットレジンを使用した審美保存修復の権威です。その指先から繰り出す審美修復の見事さは、ハンズオンセミナーで一度見られた臨床歯科医なら、誰しも真似をしてみたくなるはずです。そして、歯質接着性材料審美歯科治療の研究では多くの業績を残されています。宮崎教授門下の諸先生方のお世話で、この学術大会が我々臨床家にとって新なる希望と道筋を示してくれることでしょう。
学術大会に集う臨床歯科医、基礎研究学識経験者、臨床研修医、歯科技工士・歯科衛生士等パラデンタルスタッフ、材料関連会社等、歯科界で働くすべての人達が進歩と変革に携わることを祈ります。世界に誇れる、国民の健康な口腔内の再生、維持管理に進んで行かれることを願ってやみません。
大会長 宮崎真至教授、実行委員長 安藤進先生、準備委員長 官揮利明先生に心より御礼感謝申し上げます。
第4回 日本メタルフリー歯科臨床学会学術大会の開催にあたって
大会長 宮崎真至
日本メタルフリー臨床歯科学会の学術大会も本年度で第4回を迎えることになりました。今回は、メタルフリーレストレーションによる臨床の実際をテーマとして、日本大学歯学部において開催する運びとなりました。本学会は、時代のキーワードであるメタルフリーに基づいた歯科医療のさらなる実現に向けて、これが国民の口腔内の健康に寄与すること大であるという理解のもとに、新しい時代の歯科医療思想の提言を行うことを目的としております。このような目的のもと、第4回を迎えたこともあり、メタルフリーと臨床との関わりのうちでも、審美性とともに臨床における実際、可能性および今後の展望について考えることにしました。
シンポジウム1では、「メタルフリーの可能性を追求する」をテーマとして、メタルフリーレストレーションにおける留意事項、なぜメタルではいけないのか、あるいはジルコニアフレームの臨床応用などについて、臨床と基礎の両面からディスカッションしたいと考えております。また、ランチョンセミナーでは、メタルフリーレストレーションの実際として、コンポジットレジン修復についてデモンストレーションを交えての講演があります。そして午後のシンポジウムでは、より臨床に即したテーマとして、メタルフリーレストレーションを広い視座から捉えようと考えております。
新しい技術あるいは材料の導入によって、ますます革新的な臨床が可能となってきた昨今の歯科臨床です。そのようななかで、新しい情報を入手するとともに、知識と技術とをさらに向上させる場に、本学術講演会が位置づけられることを願っております。
第4回 日本メタルフリー歯科臨床学会 学術大会講演
シンポジウム 1 メタルフリーの可能性を追求する
メタルフリー修復に必要不可欠なレジン系セメントから引き起こされる副作用の危険性
真鍋厚史
昭和大学歯学部歯科保存学講座美容歯科学部門
金属材料を口腔内から排除することにより審美性の向上はもとより金属アレルギーや歯肉の着色への懸念も少なくなるのは周知の通りです。一方でセラミック系、レジン系の間接修復、コンポジットレジン直接修復、ホワイトニング時の歯肉保護材などあらゆる場面で高分子材料の必要性、重要性が高まってきています。言い換えるとプライマー、ボンディング材、レジンセメントなどメタクリレート系材料はメタルフリー修復には必要不可欠な材料となっておりこの需要は益々増加すると考えられています。このような材料は歯科医師、歯科技工士,歯科衛生士、さらに患者口腔内にも直接接触する機会が当然ですが増加傾向になってきています。こうした状況が臨床上続くことにより術者側ではモノマーによる手指遅延型アレルギーの発症、患者では白化現象を伴う炎症などが現在よりさらに観察されるようになります。以前より当教室では金属のみならず歯科用接着材モノマーによる皮膚アレルギーや口腔内に飛散したプライマーやボンディング材の影響である白化現象を伴う炎症性反応を報告してまいりました。このような現症はメタルフリー修復に近づくためにはさらなる注意が必要であると考えております。
そこで今回の発表では今まで当教室において動物実験を通して明らかにしてきたレジン系材料のアレルギー性皮膚反応や口腔粘膜の肉眼所見、病理組織所見などをご紹介すると共に今後のレジン系材料の取り扱い注意点等を考えてみたいと思っております。
歯科金属アレルギーとチタン合金の応用
米山隆之
日本大学歯学部歯科理工学講座
金属材料は優れた力学的特性を示すため、歯科医療においても補綴装置や矯正用装置などで広く使用されています。しかし、金属には腐食という現象があり、耐食性に優れた金属であっても極微量の金属イオンの溶出や腐食生成物の生成は避けられません。歯科治療で使用される金属は、金や白金などのイオン化しにくい元素、あるいはチタンやクロムのような安定な不動態皮膜を生成する元素が主体となって構成されており、一般に優れた耐食性を発揮します。しかし、力学的特性や技工操作性、経済性などの目的で数種類の金属元素から成る合金が多く使用されており、金属アレルギーの原因となり得る合金元素も少なくありません。アレルギー診断の一般的検査法としてパッチテストが利用されますが、その陽性率はニッケル、コバルト、水銀、パラジウムなどで高く、クロム、銅、スズ、白金、モリブデン、金などでも比較的高くなっています。したがって、ほとんどの歯科用合金が金属アレルギーの原因となる可能性があります。患者さんに歯科金属アレルギーが疑われる皮膚疾患があり、パッチテストで陽性が認められ、修復・補綴物の元素分析で原因元素の存在を確認した場合でも、修復・補綴物の交換治療により改善する確率は決して高くないため、治療は慎重に行う必要があります。パッチテスト陽性の症例に対する治療では、第1選択としてメタルフリーの装置の使用が考えられます。近年ではジルコニアセラミックスやファイバーポストの応用により選択肢が増えてきましたが、可撤性義歯などで金属の使用が必要な場合には、チタンあるいは Ti-6Al-7Nb 合金の鋳造体を応用することが可能です。また、矯正治療でも各種の合金が使用されていますので、これらも含めて、歯科治療における各種合金の特性と選択基準についてご説明いたします。
ジルコニア修復物の可能性を追求する
小峰 太
日本大学歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座
メタルフリーによる歯冠修復の材料として、審美性、生体親和性に優れたセラミックスが従来から使用されています。シリカ系セラミックスやアルミナセラミックスを用いたオールセラミック修復は、強度の問題などから主に単独冠に対して臨床応用されてきました。しかし、十数年前に登場した酸化ジルコニウム(ジルコニア)セラミックスにより、ブリッジに対するオールセラミック修復が可能となりました。また、ジルコニアはインプラントアバットメントやインプラント上部構造にも使用され、メタルフリー修復には欠かせない材料です。
ジルコニア修復物に関して欧米を中心に、評価期間5年以下での臨床成績が数多く報告されています。それらの報告では、ジルコニア修復物の生存率は95%以上と良好な結果を示しています(Sailer I et al.Int J Prosthodont 20,383-388,2007,Roediger M et al. Int J Prosthodont 23,141-148,2010 など)。それら論文では、ジルコニアフレーム自体の破折はほとんど報告されておらず、ジルコニアフレームの生存率はほぼ100%で安定した材料であることが証明されています。しかし、いずれの臨床研究論文でも前装陶材部での破折(チイツビング)あるいはジルコニアフレームから陶材の剥離が数多く報告されています。現在は、その問題点を解消するために、ジルコニアと前装材料の接合方法や前装材料自体の強度などが注目され各方面で研究が行われている状況です。
そこで、今回は、ジルコニア修復物の特徴、臨床成績、臨床例、今後の展望などを提示し、これからのジルコニア修復物の可能性について、皆様とご一緒に検討していきたいと考えています。
ランチョンセミナー(大会長講演)
コンポジットレジン修復の臨床とその実際
宮崎真至
日本大学歯学部保存学教室修復学講座
歯冠修復処置の基本コンセプトには、齢蝕に関する知見の蓄積あるいは接着技術の飛躍的向上によって Mlnimal Intervention という明瞭な方向性が示されている。これに伴って、歯質接着性を有するコンポジットレジンの臨床使用頻度が増加するとともに、これに関するエビデンスの蓄積が精力的に行われてきた。今日では、優れた歯質接着材を用いることによって、光重合型コンポジットレジンを用いた機能と審美とを両立させた歯冠修復処置を可能にしている。また、その適応症は拡大し、歯冠破折などの比較的大型裔洞や臼歯部唆合面あるいは隣接面を含む窟洞などの修復も行われている。
歯質接着性の向上は、修復材の辺縁封鎖性を確実なものとするとともに健康歯質の削除を最小限でとどめることを可能とし、歯の寿命を延長することに貢献することとなった.歯質と同様の色調を有する接着性修復材の開発は、カリオロジーに基づいて行われる修復治療を支えるものとなり、その重要性は今後ともゆるぎないものであろう。最新のシステムともいえるシングルステップアドヒーシブは、接着ステップ数を減少させることによって、操作に伴って生じるエラーを減少させることが一つの狙いである。これらの接着修復システムの進歩によって、これまで歯科用合金を用いた間接修復を行ってきた症例においても、直接修復を置こうなうことが可能となったのである。
本セミナーでは、審美性の高いコンポジットレジン修復を行うに当たっての、臨床的な注意事項に焦点を当てるとともに、模型を用いたデモンストレーションを行うことによって、充填テクニックの臨床的留意点といかに短時間で確実な修復処置を可能とするかについて、明日からの臨床に生かせるポイントについて解説する予定である。
シンポジウム 2 メタルフリーが変える歯科治療の新たな方向
審美修復治療をメタルフリーで行う実際
川原 淳
医療法人社団 川原歯科医院
近年、患者の審美的要求が高まるにつれ、様々なメタルフリー材料の開発と普及は、我々歯科医にとって、治療の選択肢が広がり多大な恩恵を被っている。
そして、メタルフリー治療は審美回復だけでなく顔貌、歯周組織、顎口腔機能と調和することにより長期的な予後を確実にします。
今回、審美修復治療を行う上で重要となる診査、診断と治療計画の立案から私が日常診療に導入しているメタルフリー対応の各種修復システムを如何に活用して治療のゴールに至るまでを単純な症例から複雑な症例を通して述べさせて頂きます。
ウェルエイジングをサポートするメタルフリー修復
加藤正治
高輪歯科 DCC
近年、ウェルエイジングの観点から歯のロングライフ化が求められています。
超高齢社会に対応するためには若年者から高齢者まですべての世代に対してエイジマネジメントの視点で修復治療を行う必要性があると考えます。とくにメタルフリー分野ではボンディング材、レジンセメント、ファイバーポスト、ジルコニアなどの新しいマテリアルが充実し、審美性と機能性を兼ね備えた魅力的な提案が可能となりました。しかし一方で、患者のニーズや治療法の選択肢も多様化してきています。徹底的に歯質を保存することを優先する場面、あるいは致命的なトラブルを回避するために補綴に踏み切る場面、審美治療がもたらすプラスの効果のためにそれに伴う侵襲を最小に抑えなければならない場面等、われわれの判断と技術がその歯のエイジングに大きな影響を与えることも事実であります。
以上のような背景から、修復物の審美的な要素だけでなく、溝ず第一に歯髄保存のアドバンテージを重視した修復治療を実践することは、支台歯の変色や強度の低下を避けるために有効なエイジマネジメントとして位置づけられるでしょう。また、長期に患者とつきあう臨床家にとって、tooth wear に代表されるような加齢に伴う変化や歯根破折をはじめとする力学的不調和を予測し、あらたな補綴修復を提案することもエイジマネジメントにおける必要な局面であります。ボンディングシステムを活用した直接修復からジルコニアセラミックスによるフルマウスリコンストラクションに至るまで、メタルフリーを通じてウェルエイジングをサポートしていくことは必ずや QOL の向上と歯のロングライフ化に貢献することとなるでしょう。
今回は、メタルフリーを軸に歯科医療をエイジマネジメントの視点で再考し、新たな修復治療の価値を模索する機会にしたいと考えております。
歯を守るメタルフリーう蝕治療
日野浦 光
日野浦歯科医院
脱灰(⇔再石灰化)→う窟→修復処置一二次う蝕一抜髄→クラウンー破折→抜歯と進行していくう蝕の重症化(Repeated Restoration Cycle)は、脱灰⇔再石灰化の過程以外は抜歯に向かっての一方通行です。その Cycle の進行をできるだけ遅くすること、さらに Cycle をどこかで長い期間停止させることは、歯を長く使ってもらうためにも重要です。そのためにはう裔を小さいうちに発見すること(早期発見・早期治療)はもちろん、さらにはう窟になる前のう裔になりそうなところをそのリスクとともに見つけ出し、う裔になる前に食い止める(早期リスク発見・早期対処)ことも要求されています。
そのような中、 M I という概念がう蝕治療で定着しています。この M I の概念の実現のためには、口腔内細菌数を減少させる、患者教育を徹底する、再石灰化を促進させるなどの早い段階での Early Intervention が求められています。さらに、接着性材料やメタルフリーの審美性材料の向上により切削を必要とする治療にも大きな変化をもたらしてきました。「歯を守る」というこの概念は、広く国民にも受け入れられるものです。
審美性をも考慮に入れたメタルフリー治療により、歯や歯並びが審美的で、 Quality of Life が高く健康的であることは、国民すべての願いです。 M I の概念の元でのう蝕治療に対する取り組みを通じて、機能性や審美性を持つ歯が高齢者になってまでも長く使用できることは、すべての人々の望みです。それを実現するために歯科医院全体が共有しなければならない考え方を、皆さんと共に見つけていきたいと思います。
展示ブース
会場には展示ブースが設営され、最新の歯科医療器具や情報・書籍等の展示がありました。
協賛団体・企業様
- 株式会社トクヤマデンタル
- 株式会社松風
- スリーエムヘルスケア㈱
- シロナデンタルシステムズ㈱
- 株式会社ジーシー
- ペントロンジャパン株式会社
- クラレノリタケデンタル株式会社
- サンメディカル株式会社
- キング工業株式会社
- 相田化学工業株式会社
- 株式会社モリタ
- デンツプライ三金 株式会社
- Z-Systems Japan
- 株式会社 KAWARYO PGM